それから毎日の様に、お姫様は王子様と別れた海辺に浮かび上がりました。
海辺から見る美しい陸上の世界に、お姫様はだんだん人間を慕うようになりました。
人間の世界の事を、もっと知りたいと思ったのです。
3.世界
あの日から、こっそりと家を抜け出してあの公園へ行くのが翼の日課になっていた。
目的はもちろん、もう一度あの『マサキ』という名の彼に会うためである。
何故彼に会いたいと思うのか、翼にもよく分かっていない。
よく日に焼けた褐色の肌。
ポーンポーンとリズム良く弾むサッカーボール。
楽しそうにリフティングしている彼が、すごく眩しいと思った。
正直なところ、会ってどうしたいという明確な理由はない。
伝えたい事があるわけでもない。
ただ、あの瞬間の彼が、どうしても頭から離れなくて。
無性に、もう一度会いたいと思った。
しかし、毎日同じ時間に抜け出せるという訳ではなく、午前からの時もあれば午後からの時もある。
結局、あの日以来マサキとは一度も会えないまま2週間が過ぎていた。
会えなかったからといってそのまま帰ってしまうのでは、何だか勿体無い。
そう思った翼は、この2週間の間にいろんな所へ行き、いろんなモノを見てきた。
映画館やデパート、ゲームセンターにファーストフード店。
興味のある所は片っ端から覗いた。
何度か補導されそうにもなったが、その度うまく逃げ切った。
初めてナンパされた時は、怒りよりも珍しさの方が先に出てきて、思いきり質問攻めしてしまった。
綺麗な見た目に釣られ初めて食べたジェラートは、すごく美味しかった。
それまで翼にとって非日常だった世界がそこにはあった。
◇
そんなある日の事。
翼はいつもの様に家を抜け出すと、前から一度行ってみたいと思っていた場所へと向かった。
家から徒歩20分。
広いグラウンドと大きな校舎。
近くにある飛葉中学校だ。
今は夜でもなければ、休日ですらない。
さすがに平日の真昼間から校舎内に忍び込む訳にいかないので、グルリと建物に沿って歩いて行く。
現在は授業中らしく、グラウンドではどこかのクラスが体育をしている。
梅雨も間近です、というお天気お姉さんの声に逆らうような日差しの中、
小麦色のグラウンドで一つのボールを懸命に追う学生の姿があった。
ある者はダラダラと、ある者は懸命に、それでも皆楽しそうに走っている。
その様子を見ながら、翼はキュウっと胸が締め付けられるのを感じた。
今まで自分が一度たりとも足を踏み入れた事のない場所。
本来15歳ならばほぼ必ず在籍しているだろう空間。
正確に言えば、翼は『15歳』であり、『15歳』ではないのだが・・・。
あの公園にいたという事はマサキは案外近くに住んでいるのかもしれない。
外見的に考えて中学生〜高校生くらいだろう。
近くの学校へ行けばもしかしたら会えるかもしれない。
そんな淡い期待を抱いてこの学校までやってきた。
もちろん、純粋に学校がどんな所なのか見てみたいという気持ちもあったのだが。
でも結局マサキの姿は見えないし、仮に居たとしても会ってどうしたいかなんて、結局いまだに分からない。
けれど、一つだけハッキリした事がある。
自分はまだ、彼らと同じ舞台にすら立っていないのだ。
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久しぶりの更新。
あまり進んでない。
(2008・3・29)