全てが夢なら 

 

 

 

夢を見た。
悲しい、悲しい夢。

 

英士と結人が、目の前で殺された。

その場に残されたのは、俺一人だけ・・・。

 

 

 

 

 

「・・・ま!一馬!!」

 

 

うなされていると自分の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
その声に導かれるように、ゆっくり目を開ける。

 

「すごいうなされてたけど、大丈夫?」

英士が心配そうに俺を覗き込んでいる。
上半身を起こすと、結人と監督がこちらへ向かってくるのが見えた。

 

 

「真田くん、気分はどう?」

濡れタオルを手渡しながら、監督が訊ねる。
しかし俺は、まだ自分の置かれている状況が飲み込めない。

「お前、頭にボール受けて脳震盪おこしたんだよ。
 確か前にもこんなことあったよな〜?」

俺の様子に気付いた結人が、冗談交じりに説明する。
それを聞き、俺は改めて辺りを見わたした。

 

 

 

見慣れたサッカーのフィールド。
東京選抜の仲間達。

 

 

 

あぁ、そうだ。
今、選抜の練習中だったんだ。

 

 

 

「どう?練習続けられそう?」

監督が再び訊ねる。

まだ頭がくらくらするものの、何とか動けそうだ。
俺は「大丈夫です」と答え、立ち上がった。

 

 

 

練習に戻ろうとして、ふいに結人に話しかけられる。

「なぁ、一馬。さっきどんな夢見てたんだよ?
 何か俺と英士の名前呼んでたぞ」

「えっと・・・あの、それは・・・」

俺は何となく気まずくて口ごもってしまう。
だって夢とはいえ、自分が死んだなんて普通、聞きたくないだろ?

 

しかし、結人はしっかり俺の腕まで掴んで話を聞く気満々で待っている。
英士も英士で、自分も名前を呼ばれたのだから気になるのだろう。
いつもは興味なさそうなのに、今回は聞くつもりらしい。

 

結人と英士に嘘は通じない。

しぶしぶ俺は、今見た夢を話してみる。

 

 

「・・・英士と結人が、俺を残して死んじゃったんだ。
 だから、すっごい寂しかった・・・」

「はぁぁ?何だよその夢!?縁起でもねぇな〜」

 

口では『縁起でもない』と言いつつも、爆笑する結人。
夢とは言え、かなりショックだったのに笑われる俺って一体・・・。

 

「ちょっと結人。そんなに笑っちゃ一馬が可哀相でしょ」

落ち込む俺を見かねて、英士が結人を止めようとする。
しかし、そう言う英士も口元が笑っている。

 

 

 

二人の様子を見ていると、落ち込んでいた自分が馬鹿みたいに思え、少し拗ねる。
それに気付いた二人が、慌てて俺をフォローする。

 

「ごめんごめん!でも、たかが夢じゃん?
 一馬、気にしすぎだって!」

「そうそう。それに人が死ぬ夢って長生きを表すっていうでしょ?
 逆にその夢、縁起良かったんじゃない?」

 

友達が死ぬ夢なのに、果たして縁起が良いんだろうか。
そんな疑問がふと脳裏をよぎる。

でも、考えてみれば確かに落ち込みすぎかもしれない。
正夢とかって聞くけど、俺そんなん見たことないし。
予知夢・・・もさすがに無いだろう。

 

うん!言い方はともかく、英士と結人のおかげでちょっとすっきりした!

 

 

「二人とも、ありがとな!」

「おう!あんま夢ごときに悩むなよ」

「ほら、二人とも、そろそろ練習再開だよ!」

「「あぁ!」」

 

 

 

三人で一斉に駆け出す。
あんな夢を見た後だからだろうか。

このとき、これからも三人でずっとサッカーをしていきたいと思った。

 

 

 

 

 

その次の瞬間―――――

 

 

 

 

 

 

 

どおぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

急に爆発音のような大きな音が聞こえた。
びっくりして、とっさに目を閉じる。

 

 

 

再び目を開くと、夜空に広がる満天の星と、その真ん中に浮かぶ三日月が見えた。
さっきまで、いや、目を閉じるちょっと前まで昼間だったのに・・・。

しかも、立って、ちょうど走り出したはずだったのに、何故か寝転んでいる。

 

何が起こったのかわからないまま体を起こそうとすると、左肩に鋭い激痛が走った。

 

 

「・・・っ!!」

 

 

とっさに右手で左肩を押さえると、ぬるっとした生ぬるい感触が伝わってきた。
痛みを我慢し、何とか起き上がる。

左肩をよく見てみると、まるで何かにえぐられたような傷がある。

 

「・・・俺、何でこんな怪我してんだ・・・?」

不可解な事ばかりで、すごく不安になる。
とりあえず周りを見わたすと、目の前に英士と結人が転がっているのが見えた。

 

 

 

「英士!!結人!!」

 

 

 

急いで駆け寄ろうとして―――――駆け寄れなかった。

 

 

 

月明かりに照らし出されたのは、真っ赤に染まった親友達の姿。

体のあちこちには、まるで銃で撃たれたかのような痕が残っている。

 

 

 

 

 

 

 

そうだ。思い出した。

俺達、東京選抜のメンバーは、

2日前、あの悪魔のゲームに参加させられたんだ。

 

 

 

そして、英士と結人は、

俺の目の前で殺された。

俺をかばって・・・。

 

 

 

 

 

 

 

あれは、あの悲しい夢は夢じゃなかったんだ。

 

 

 

夢だったのは、今まで見ていた『現実』の方・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嫌だ!

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「英士・・・・・結人・・・・・」

 

 

 

 

 

誰か、僕の名前を呼んでください。

早く、僕を夢から起こしてください。

 

 

 

こんな悪夢、現実のはずがないんだから・・・・・。

 

 

 

 FIN 

 

 


二人のいない世界なんてきっと、俺には意味がないモノだから。

(2004.11.23)

 

 

ばっく