死が二人を別つまで 

 

 

 

ゲーム開始から1時間後。
水野と佐藤は寂びれた教会にいた。

ゲームに使われるよりも随分前から使われていないらしく、
椅子は壊れ、ステンドグラスは割れていた。

教会のシンボルともいえるキリスト像だけは無事だが、
これにもかなりの数のクモの巣がかかっている。

 

教会についてすぐ、佐藤は支給されたバックの中身を確認し始めた。
水野はというと、佐藤の横で俯いたまま、今後の事を考えていた。

 

 

とりあえず、水野はこのゲームに乗る気はない。
かと言って、このまま何もせず、死んでいくというのも馬鹿らしい話である。

しかし、何度考えても良い案が浮かばず、結局はここで行き詰まっていた。

 

 

「なぁ、たつぼん。このゲーム、乗るか?」

不意に、佐藤が口を開いた。
急に話しかけられた水野が、驚いて顔をあげる。

佐藤は、いつになく真剣な顔をして水野の答えを待っている。
その瞳があまりにも真剣すぎて、何も言えなくなった水野は、ただ必死で首を横に振った。

佐藤は「そうか」とだけ言い、再び作業に戻った。

 

 

 

『ゲームに乗る』
なぜ佐藤はそんなことを聞いたのだろうか。
まさか、佐藤はこのゲームに乗るつもりではないのか。

ふと、水野の頭にそんな考えがよぎる。
不安になった水野は、思い切って佐藤に切り出してみた。

 

「シゲは・・・、シゲはこのゲーム、乗る・・・のか?」

「乗るわけあるかい!こんなクソゲーム!!」

 

叫ぶように佐藤が答える。
それは、政府への反抗にも聞こえる声だった。

その声に驚いている水野を尻目に、佐藤が話を進める。

 

「たつぼん、俺な、このゲームを壊すつもりやねん」

「ゲームを・・・壊す?」

話の内容がうまく理解できない水野が、佐藤の言葉を復唱する。
佐藤は「せや」と答え、詳い説明を始めた。

「俺の考えが正しければ、この首輪は、あの校舎内のコンピュータで制御されとるはず。
 つまり、そのコンピュータを壊せば、首輪も解除できるっちゅーわけや!
 首の爆弾さえ解除できれば、とりあえず死ぬ心配はせんでええからな」

 

なるほど、と水野は頷いた。
確かに首輪さえ解除できれば、後は見つからないように逃げるだけでいい。

しかし、この意見に水野は少々疑問を感じ、佐藤に尋ねた。

 

 

「確かにシゲの意見は正しいと思う。
 だけど、コンピュータまでどうやってたどり着くんだ?」

 

 

水野の意見は、最もだった。

校舎一帯はみんなが出た後すぐ、禁止区域となっていたはずである。
そのため、少しでも校舎に入れば、首輪が爆発して、即あの世逝きなのだ。

 

これには佐藤も困った顔をしてみせた。

「そこが問題なんや・・・。まさか遠くから狙撃ってわけにもいかんし・・・。
 第一、武器が武器やしなぁ」

そう言ってチラッと2人の武器に目をやった。
目線の先にはバタフライナイフ1本とダーツセットが置いてある。

はっきり言って、どちらも当たりとは言いがたいだろう。

 

 

「でも、きっと何か方法があるはずなんや。
 俺は、その方法を意地でも探し出す!」

 

 

 

佐藤の目には、絶望など浮かんでいない。

 

 

 

「たつぼん・・・付いてきてくれるか?」

 

 

 

その目をみた瞬間から、水野の答えはもう決まっていた。

 

「当たり前だろ!こんなゲーム、二人でぶっ壊してやろうぜ!」

「さすがたつぼん!話が早いわ」

 

 

言うと同時に佐藤が立ち上がり、協会の奥へ向かって歩き出す。
キリスト像の前までくると、水野もこちらに来るよう呼びかけた。

水野が横に並ぶと、佐藤は再びキリスト像へ向きなおした。

 

 

 

 

 

 

「俺は、健やかなる時も、病める時も、喜びのときも、
これを愛し、これを助け、死が二人を別つまで、水野竜也を守ると誓います」

 

本物の協会での結婚式なんて見たことがないくせに、
佐藤が誓いの言葉をまねて宣言する。

 

でもそれは、本物の誓いの言葉よりずっと真剣で、ずっと神聖で・・・。

 

 

いつもならバカにして終わる所だが、今は違う。
それまで佐藤を見ていた水野もキリスト像に向きなおる。

 

「・・・俺は、健やかなる時も、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、
これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、佐藤成樹を信じ付いていくと誓います」

 

 

 

そこで一息つき、再び佐藤の顔を見る。
佐藤もそれに気付き、水野を見る。

 

 

 

「死が・・・二人を別つまで―――――」

 

 

 

 FIN 

 

 


死が二人を別つのは、きっとそう遠くない事だとしても。

(2004.11.23)

 

 

ばっく