明日が怖いと思う日が来るなんて
「今日から練習に加わる新しいメンバーを紹介します。
さ、自己紹介して」
西園寺監督に促され、僕は一歩前へ出た。
「桜上水中学2年の、風祭将です。
ポジションはFW。これからよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げ、元の位置に戻る。
今日僕は、東京選抜の練習に新たに加わった。
元々、東京選抜のメンバーだった僕が、何故“新たに”なのか。
その答えは、1ヶ月前にあった。
1ヶ月前、日本のある小島でバトルロワイヤルが行われた。
そのゲームに選ばれたのが、僕らのいた東京選抜だった。
死にたくなかった。
もっとサッカーをしていたかった。
だから、僕はみんなを裏切った・・・。
戻ってきた僕が望んだものは、『日常』。
それを聞いた政府は、前回外れたメンバーの中から、新しく東京選抜を召集した。
新しい東京選抜。
1ヶ月前とはメンバーは違うけど、
今日からいつも通りだと思うと、心が弾んだ。
今日は、練習試合を行うらしい。
勘を取り戻すには実戦が一番という理由で、僕もスタメン入りしている。
しばらく監督の話を聞いた後、試合開始のホイッスルが鳴った。
しかし、長い入院で身体がなまっているため、思うようにプレーできない。
いや、それ以前にチームのメンバーと全然息があっていない。
それでも何とかゴールを決めようと必死に走る。
「風祭!!」
三上先輩が僕の名を呼び、パスを出す。
その時―――――。
『行くぞ!風祭!』
「―――――水野くん?」
ふと、三上先輩と水野くんが重なって見え、立ち尽くす。
その間に、相手にボールを奪われてしまった。
「おいおい、何やってんだよ」
チームメイトたちが呆れたように言う。
僕は謝ろうとして、不意に違和感に襲われた。
ナニカガチガウ・・・・・。
『チビだからスタミナがもたねーんじゃねーの?』
「鳴海・・・!?」
いきなり叫びだす僕に、周りの人たちが驚く。
それは監督にも伝わったようで、心配そうにこちらを見ている。
『何ボーっとしてんの?ほら、次行くよ、将!』
「翼さ・・・っ」
僕が気付いてしまった違和感。
僕が気付きたくなかった真実。
ミンナノコエガキコエナイ―――――。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
あの時、僕が戻りたかったのは、
みんなのいない “明日” じゃない。
生きると決心したあの時、僕が、戻りたいと心から願ったのは、
みんなといた “昨日” だったんだ・・・。
でも、気付くのが少し遅すぎた。
きっとこれは、みんなを裏切った僕への罰。
僕はこれから、みんながいないこの苦しみを味わって生きていくんだ。
明日もまた、みんなのいない一日が始まる。
FIN
怖い。
大切な人がいない明日が。
それを選んでしまった自分が。
(2004・11・23)