馬鹿、と笑えたらよかったのに
♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜
真夜中の2時を回った頃、俺の携帯が着信を告げた。
人が気持ちよく寝ているときに一体誰だ、と悪態をつく。
眠かったのでしばらく無視してみる。
しかし、結構長かったはずの着信音が、2回流れてもまだ鳴り止む気配はない。
仕方なくベットの中から手探りで携帯を探し出し、通話ボタンを押した。
「はい」
『・・・・・三上先輩・・ですか?』
聞こえてきたのは、少し遠慮がちな藤代の声。
「藤代?お前、時計の見方わかるか?」
『それくらいわかってますって。あーでもよかったー。
三上先輩なかなか出てくれないから寝てるのかと思いましたよ』
「今の着信で起きたんだ」
あははー、と藤代の笑い声が聞こえる。
ちょっとは遠慮するかと・・・いや、
むしろ最初の一声が遠慮がちだと思った俺が馬鹿だった・・・。
「お前、明日も朝早いんだろ?こんな夜中まで起きてていいのかよ」
『そうっすねぇ。俺、早起き苦手なのになー』
わかってんなら寝ろよ。
そう突っ込もうと思ったが、眠くてそんな気力もなかったので止めておいた。
代わりに、寝返りを打ちながら軽く伸びる。
「で、何の用だよ?早く言え。俺、眠いんだけど」
『大丈夫です!すぐ終わりますから』
いやいや、こんな時間に電話掛けてきた時点で『大丈夫』じゃないし。
さらに突っ込みかけるが、これまた止めておく。
言ったらヒドイだのなんだのと電話時間が延びることは目に見えてるしな。
下手な事は言わず、早く用件を言うように促す。
「はいはい。で?」
『あのですね・・・、俺、三上先輩の事ずっと好きでした!』
「はぁ!?」
『俺、サッカー大好きです』と言うくらいのノリで、いともあっさりと告白される。
しかも、全国の告白できない少年少女が聞いたら羨ましくなるくらいキッパリ言い切りやがった。
『はー、よかった!ちゃんと言えたー』
「何が『言えた』だよ、バカ代。どーせバツゲームか何かだろ?」
『違いますよ〜。本気ですって!』
「今日、何月何日かわかってるか?間違ってもエイプリルフールじゃねーぞ」
『だーかーら!嘘じゃないですってば!たまには信じてくださいよ』
今日の藤代は、いつになく強情だ。
いつもならここまで本気で否定してこない。
・・・まさか、本気なのか・・・?
いや、だとしても何でわざわざこんな時間に言う必要がある?
やっぱりバツゲームか何かだとしか思えない。
考えててもラチがあかねぇ。
ここはやっぱ、本人に聞いてみるか。
「じゃあ、仮に本気だとして、何でこんな真夜中に告白してんだよ?
別に明日とか帰ってきてからでもよかったんじゃねーの?」
『今言わなきゃ、絶対後悔すると思ったんです』
「あぁ?」
今やつはそんなに気分がノリノリなんだろうか・・・。
そんな事を考えていると、俺の考えを読み取ったように、藤代が解説を始めた。
『三上先輩、バトルロワイヤルって知ってますか?』
「政府が考え出した殺し合いゲームだろ。それくらい有名じゃん」
『俺、今それに参加してるんです』
藤代がさっきの告白のノリみたいに、軽く答える。
今度はまるで、『俺、今サッカーしてるんです』とでも言っているかのようだった。
「何言ってんだよ。あれは確かクラス毎に行われるはず・・・。
お前が今やってるのは、東京選抜の合宿だろ?」
『何でも、今年から採用された特別ルールだそうですよ。
運悪いですよね〜、こんなのに参加させられるなんて』
「それが本当だったら、何で電話繋がってるんだよ!おかしいだろ?」
『俺も繋がらないと思ってたんでびっくりしました。
でも・・・最期に三上先輩の声聞けてよかったです』
「最期って・・・お前、何言ってるんだよ!?」
信じてなんかいないはずなのに、自然と声が震える。
それを誤魔化すように、それを悟られないように、声を荒げる。
大丈夫、と自分に言い聞かせるように。
『俺、殺し合いなんかしたくないんです。でも、逃げる方法もわからなくて・・・。
どうしようか迷ってたら・・・撃たれちゃいました』
「撃たれた・・・?」
静かな部屋の中で、自分の鼓動がやけに大きく聞こえた。
声だけでなく、携帯を持つ手もかすかに震えている。
『ごめんなさい。本当はもっと早く言いたかったんですけど・・・』
「そんなことどうでもいいから!お前傷は!?」
『あ!それと、俺は会ってないんですけど、キャプテンはまだ生きてます。
間宮は・・・もう殺されちゃったみたいですけど・・・。
先輩も、キャプテンが無事な事祈っててあげてくださいね!』
「おい!藤代!!聞いてんのか!?」
『三上先輩・・・今まで本当にありげとうございました。
・・・・・・さよならっ・・・・・・』
「藤代っ!!!!」
『俺、三上先輩の事ずっと好きでした!』
『バーカ』って言って、笑いあえたらよかった・・・。
今回くらい騙してても許すから、『冗談です』って言って戻って来て欲しかった・・・。
「・・・俺も、お前の事好きだったんだぜ・・・?」
この声はもう、君に届かない・・・・。
FIN
例え好きだと言えなくても、馬鹿と笑えればそれでよかったのに。
(2004・11・23)