未来へ
黒鋼の剣が、アシュラ王の身体に、深く深く飲み込まれていく。
オレは瞬きもせず、声も出さず、ただただ、アシュラ王を見ていた。
「私などの為に泣いてはいけないよ」
アシュラ王が、オレに向かって話しかける。
頭がパニクっていてまだ状況がうまく飲み込めない。
・・・はずなのに、涙だけがとめどなく溢れてくる。
「出来れば君に殺されて、最後の呪いは消してあげたかったのだけれど」
そっと、アシュラ王に抱きしめられる。
あぁそうか。
ちゃんと聞かなければ。
一字一句逃さないように。
彼の最期の言葉を。
「彼らとなら呪いを乗り越えられる」
でも本当は・・・。
「・・・・お・・う・・・・・・!!」
最期の言葉なんて聞きたくなかったのに・・・。
本当は最初から分かっていたのかもしれない。
アシュラ王の事も。
ファイの事も。
それでも、彼らに生きていて欲しかったと思うのは。
彼らと共に生きたかったと思うのは。
オレのエゴでしかないのだろうか。
ねぇ、黒様。
こんなことを言ったら君はまた怒るだろうけど。
アシュラ王もファイもいなくなって。
君は『眠らせてやれ』って言ったけど。
オレも『ごめんなさい』なんて謝ったけど。
二つ目の呪いが発動した時。
セレス国が閉じていく中で。
オレは、これで二人のもとへ行ける、なんて考えてたんだ。
でも君は、そんなオレを許してはくれなかったね。
「行け!」
モコナの魔法具で開けた『出口』でも、核となる術者は通れない。
オレはみんなと一緒にはいけない。
だから、精一杯叫んだ。
オレを置いていくように。
みんなが生きていられるように。
一瞬、それまでずっと掴まれていた腕が自由になる。
───────刹那。
黒鋼の、腕が。
今までずっとオレの腕を掴んでいたはずの左腕が。
ゴトンと鈍い音を立ててオレの横に落ちる。
黒鋼はそのまま蒼氷をも捨て去ると、残された右腕でオレを法円から引き上げた。
その瞳は何の迷いも、何の躊躇もなく。
赤く、赤く、澄んでいて。
とても綺麗で。
桜都国での、会話が蘇る。
――――― 俺はずっと待ってたからなぁ 連れてってくれる 誰かを ―――――
君はあの時のオレの言葉を覚えていてくれた?
神様なんて信じてないけど。
でも、もし神なんてものがいるのなら。
お願いです。
俺の声を聞いてください。
どうかどうか、願いを叶えてください。
みんなと一緒に行きたいです。
彼と一緒に生きたいです。
こんなオレでも、願いを叶えてくれますか?
アシュラ王の事も、ファイの事も忘れたわけじゃない。
これから先、何度でも思い出すだろう。
何度でも悔やむだろう。
でもきっと、隣には君がいてくれるから。
君と生きる未来を信じて。
「お返しだよ 『黒様』」
「・・・・ぶっ飛ばすぞ てめぇ」
ありがとう。
FIN
「お返しだよ、黒様」に激しく萌え過ぎた結果の産物。
(2007・10・26)