ぽかぽか陽気に誘われるように鮮やかに色を付けた桜の木の下。
ひらひらと舞い散る花弁を眺めながら、ぼんやりとあの日の事を思い出していた。
どうして彼は行ってしまったのか。
どうして僕は彼を止めなかったのか。
もっと話したい事が沢山あったはずなのに。
「サヨナラ」と笑う彼を見ていたら、何故か言葉が何も出て来なくて。
Nの一挙一動、全てを邪魔してはいけない気がして。
どうしても体を動かす事が出来なかった。
否、彼を止めてはいけないと感じてしまったんだ。
彼を縛るものは、もうどこにもない。
Nはようやく自分の為に生きる事が出来る。
色んな事を体験する為に。
色んな事を知る為に。
そして、自分の本当の夢を見つける為に、彼は旅立った。
そんな彼を止める権利は、誰も持っていない。
その思いは今でも変わっていないし、自分の判断が間違っていたとも思っていない。
・・・・・・けれど。
ズキズキズキ。
この胸を刺すような痛みが、酷く自己を主張し続けるもんだから。
やっぱり自分は後悔しているのだと、否が応でも自覚してしまう。
もしあの時、立ち去ろうとする彼を、なりふり構わず止めていれば。
動かなかった体を、どうにかして動かしていたのなら。
何か、変わっていたのだろうか。
彼は今も・・・隣にいてくれたのだろうか。
(何を今更・・・)
ふと、自分のあまりの浅はかさに、自虐的な笑いが込み上げてきた。
そう、こんな事をいくら考えても、全ては『今更』なんだ。
いくら後悔しようとも、もう二度と『あの時』は戻ってこない。
いくら願っても、もうNはここにはいないんだ。
ゆらりと目の前の視界が歪んだ気がして、慌てて眼をこする。
今更だと言いつつ、まだ涙が出るほど感情が揺らいでしまうなんて・・・。
どうやら僕は、自分で思っているよりずっと彼を──────────
考えをリセットするように、ふるふると頭を大きく振り被る。
こんな事ばかり考えていても、何か変わる訳じゃないんだ。
思考の渦から脱出した所で、ようやくポケモン達の賑やかな声が耳に飛び込んできた。
天気もいいので、一休みついでに手持ちポケモン全員、ボールから出して遊ばせてある。
何をしているのかは分からないが、皆楽しそうに駆け回っているのが見えた。
彼等に混ざって、気を紛らわせてこようか。
こうして座っているよりは随分マシなはずだ。
重い腰を上げると、息を一つ吐いて、ポケモン達を見た。
・・・・・・あれ?
どうしたんだろう。
さっきまでの楽しそうな雰囲気から一変、何やら騒いでいるように見える。
「おーい皆ー、何かあったのー?」
ポケモン達の様子からして、困った事があった訳ではなさそうだ。
恐らく、何か珍しいものでも見つけたんだろう。
のんびり声を掛けながら、彼等の方へと歩み寄っていく。
後少し・・・という所で、突然ゼクロムが一際大きな声を上げた。
その声に驚き、思わず歩みを止める。
僕の方を・・・否、僕の後ろに広がる空を見つめながら、ゼクロムは何度も何度も声を上げる。
その声はまるで、誰かを呼んでいるように聞こえる。
「ゼクロム、一体どうし・・・・・・」
「 」
ゼクロムの声に呼応する、小さな声。
聞こえた、と認識した瞬間にはもう、無意識に振り返っていた。
ゼクロムが見上げる方向に見えたものは、こちらへ向かって飛んでくる小さな小さな影。
まさか・・・いや、そんなはずは・・・・・・。
もう一度ゼクロムに視線を向けると、ゼクロムは一旦鳴くのを止め、こちらに顔を向けた。
その表情は、予想通り喜びに溢れていて。
僕と目が合うと、一度だけ、ゆっくりと頷いた。
ズキズキとした痛みが、ドキドキという鼓動に変わっていくのを感じる。
堪らず、僕はその影の方へ向かって駆け出した。
「Nーーーーーーーーーー!!!」
大きく手を振り、主張する。
僕はここだと。
僕はここでお前を待っているんだと。
まずは一発殴ってやろう、とか。
連絡先も教えずに勝手に消えた事を説教してやる、とか。
色々考えていたんだけれど。
レシラムから下りてきたNの笑顔を見たら、この言葉しか出て来なかった。
「おかえり、N」
(「ただいま」と、君が嬉しそうに笑うから、それ以上何も言えなくなったんだ)
FIN
この度、柚木ちゃんが夢に向かって大きく1歩前進しちゃったそうで!
ご迷惑かなと思いつつも、こっそりお祝い小説を書かせて頂きました。
いつも柚木ちゃん宅のオリジナルっ子小説を書かせて頂いてるので、
今回は思考を変え、BW2発売も近いので、N主♂小説にしてみました。
ブログでも書いたけど、前に書いたN主♂小説といい、私はよっぽどNが恋しいらしい(笑)
最後になりましたが、柚木ちゃん、本当に本当におめでとうございます(≧∇≦)
※柚木様のみお持ち帰り可能です。
(2012・5・21)