約束はないけれど 

 

 

 

部活動を終えた生徒達が、一人、また一人と玄関を通り過ぎていく。
その中に"彼"の姿は無い。

それだけ確認すると、螢は再び、つまらなそうに玄関扉へと寄り掛かった。
螢の視線の先には、未だ主人の現れない下駄箱が一つ。

 

 

 

別に何か約束があった訳じゃない。
ただ、いつも螢が部活動を終えて玄関まで来ると、そこに"彼"・・・安曇宵人がいたのだ。

宵人が「待っていた」と言ったことは一度もないけれど。
何となく成り行きで一緒に玄関を出て。
何となく成り行きで一緒に宵人の寮へ行って。
何となく成り行きで体を重ねる羽目になって。

それが、螢と宵人の日常となっていた。

 

しかし、今日は違っていた。

螢が玄関までくると、そこに宵人の姿はなかった。
もう帰ったのかと思い下駄箱を覗くも、そこには外履き用の靴がまだ残っている。
つまり、彼はまだ校内に残っているのだ。

学校一の問題児と呼ばれ、普段から授業も真面目に受けない宵人だ。
何も無ければ、部活動をやっている螢より早く家路へ着けるはずだが・・・。

きっと教師から呼び出しでも食らったんだろう。

そう結論付けた螢は、たまには自分が待っててやるかと、少しばかりの優越感を感じながら玄関扉に寄りかかった。

 

 

 

─────そして、冒頭に戻る。

かれこれ30分以上は待っただろうか。
チラリと持っていた時計へ目を落とすと、既に時間は19時半を指していた。

「いくらなんでも遅すぎる・・・」

誰に言うでもなく、螢の口から思わず不満が零れる。

宵人は部活動も委員会も入っていない。
呼び出されたにしては、少々時間が経ち過ぎている。

 

約束なんて、一言もしていない。
待っててくれと言われた覚えもない。

先に帰ってしまおうか。

 

「・・・・・・よし!」

気合を入れて玄関扉から体を離す。
そのまま回れ右をして玄関へと体を向け・・・・・・振り返ってしまった。

何度も言うが、約束なんてしていないのだ。
別に待っている義務はない。
いつも宵人が待っているのだって、螢が頼んだ訳ではない。
それどころか、彼がいつもここにいるのは、単に螢の体目当てなだけかもしれない。

しかし、螢の足がそれ以上前へ進む事はなかった。

 

ため息を一つ吐き、もう一度玄関扉へと体重を預ける。

「早く来いよバカ安曇・・・」

憎々しげに未だ開かれることのない下駄箱を睨む。

別に安曇と帰りたい訳じゃない。
別に安曇に会いたい訳でもない。
ただ、これだけ待たされたんなら、いっそ文句の一つでも言ってやろうかと思っただけだ。

そう自分に言い聞かせるように念じると、立ちっぱなしの足を労わるように、その場にしゃがみこんだ。

 

 

 

 

 

 

それから更に20分後。
宵人は欠伸を一つ、寝ぼけ眼を擦りながら、暗くなった廊下を歩いていた。

この授業はまだ出席日数は大丈夫だったはず。
そう計算し、屋上でサボって寝たはいいものの、すっかり熟睡してしまい、今に至るという訳だ。

窓から見える景色は、すっかり闇に包まれている。

「流石に帰ったよなぁ・・・」

脳裏に気の強そうな瞳で自分を見る"彼"・・・和泉螢の姿を描きながら、ため息を落とす。

別に何か約束をしていた訳ではない。
螢が自分を待っているという保証はどこにもないのだ。

 

 

玄関に到着するも、そこに人の姿は見当たらない。

やっぱり帰ったのか。

寝こけていた自分の愚かさを後悔しつつ、下駄箱から靴を取りだす。
履いていた上履きを下駄箱に戻し、取り出した靴に右足を差し入れ・・・・・・

 

「遅い!」

 

聞こえてきた声に、宵人は思わず動作を止めた。
そちらへ視線を向けると、そこには先程頭に浮かんだ顔があった。
頭に浮かんだ時以上に気の強そうな・・・否、機嫌の悪そうな瞳で。

「何でいるんだ・・・?」

思わず口を突いて出た感想に、螢の頬がカッと赤く染まる。

「べ、別にお前を待ってた訳じゃないからな!どうせ呼び出しでも食らったんだろ?
だから・・・・・・そう、あれだ!ちょっとバカにしてやるかと思って、それで・・・!」

しどろもどろ言い訳を始める螢を眺めながら、宵人はぼんやりと現状を整理する。

 

俺が呼び出し食らったと思ってバカにしてやろうとしてた、というのはさておき。
じゃあ何か?
コイツは部活が終わって疲れてるにも関わらず、一人でずっとここにいたと。
一人でずっと俺を待ち続けてたと、そういう事か?

真っ赤になって言い訳を連ねている辺り、『バカにしてやろうと思って』というのも怪しい所だ。
恐らく玄関に俺がいなかったからコイツは・・・。

 

そこまで考えて、宵人は盛大に噴き出した。

「なっ!何だよ!何で笑うんだよ!」
「いや、可愛いなぁと思って」
「はぁ!?」

素直な感想を述べただけだったのだが、螢はバカにされたと受け取ったらしい。
先程までの赤い顔はどこへやら。
今度は本気の怒りを滲ませ、どういう事だと宵人に詰め寄ってきた。

宵人はそれを軽く受け流すと、途中で止めていた動作を再開し、靴を履く。
続いて、尚も横でキャンキャン吠える螢の頭を、ポンと叩いた。

 

「ほら、行くぞ」

「あっ!ちょっと待てよ!」

 

先を行く宵人の背中を、螢が追いかけていく。

トコトコっと宵人の隣に並ぶと、いつものように2人並んで、夜の闇を歩きだした。

 

 

 

 FIN 

 

 


柚木ちゃんのオリジナル作品に登場するオリキャラCP 『宵人×螢』を書かせて頂きました!
この2人の設定に関しましては、柚木ちゃんのサイトをご参照ください。 → 柚木屋

あけおめ小説と銘打ってありますが、全っ然あけおめじゃないですね(笑)
年明けと関係のなさすぎる内容に、自分でも軽くビックリしております。
おかしいな・・・構想を練ってる時はもうちょっと年明け関係のお話にするつもりだったのに・・・。

あ、でも、おめでたい日ですから、切なさはオブラートにくるんで隠しておきました!
本人達は無自覚だけど、傍から見たらなかなかのラブラブっぷり、というのが今回のコンセプトです(笑)
こんな小説でよければ貰ってやってくださいm(__)m

あと、素敵なキャラが沢山いるのに、毎回宵螢ですみません(笑)
本当は違うキャラのお話も書いてみたいなと思ってるのですが、この2人が大好きなもので、つい・・・。

では、素敵なキャラをお借りさせて頂き、本当にありがとうございました☆

 

※キャラの原作者様である柚木様のみお持ち帰り可能です。

(2012・1・1)

 

 

ばっく