もしも明日世界が終わるのならば
─例えば明日世界が終わるとして。
今日が最期の1日だとしたら。
俺は1秒でも早くお前の前から消えたいと願う。
突拍子もない事を言い出した相手に、宵人は怪訝そうに視線を向けた。
そこには、決してこちらを向こうとはせず、真っ直ぐ前を向いている螢の横顔がある。
彼が何を見ているのかは分からない。
視線の先にあるものといえば、窓が一つ。
もうすっかり暗くなった空には星が輝いているのかもしれないが、ここからではよく見えない。
こいつはまた何を言い出すんだ。
宵人は少し、考えてみた。
しかし、見ようによってはただボーっとしているようにも見える螢は、もうすでに違う事を考えている様な気がして、すぐさま考えるのを中断した。
そのまま雑誌に視線を戻した宵人は、軽口で答えを返した。
「『安曇がいない世界なんて、1秒でもいたくない』って事か?たまには可愛い事言うじゃねぇか」
「バッ・・・!!勘違いすんな!そんなんじゃねぇよ!」
真っ赤になって否定してくる螢は、ようやく宵人に視線を向けたようだ。
宵人もそれに合わせてもう一度螢へと視線を移した。
2人の視線が絡み合う。
瞬間、螢を捕えた。
と、宵人は確かに思ったのだが、螢はするりとその視線をかわすと、再び前へと向き直ってしまった。
しかし、僅かに見える横顔は、耳まで真っ赤に赤らんでいて。
その好意が照れ隠しである事をしっかりと宵人に告げている。
(冗談のつもりで言ったが、もしかして図星だったのか?)
思わぬ収穫に、宵人はニヤリと口角を上げた。
「俺がいないとお前は嫌なんだろ?」
「・・・・・・っっ!!!」
耳元で囁いてやれば、螢の体はびくりと反応を返した。
その様子に満足気に微笑みつつ、もう一度耳元で囁く。
「なぁ、正直に言えよ」
「〜〜〜〜!耳はヤメロ!」
真っ赤な顔で怒鳴りながら、螢が腕を振り上げる。
その腕をいとも簡単に捕まえると、宵人は更に質問を投げかけた。
「なんで?」
「なんで・・・って・・・・・・」
「ほら、ハッキリ言えよ。分かんねぇだろ?」
「んな事、言わなくても分かってんだろ!」
「全然分かんねぇから教えてくれって言ってんだよ。ほら、理由は?」
ニヤニヤと意地の悪い笑みで螢を覗きこむ。
そこで螢の限界が来たらしい。
「安曇のバカヤロウ!!!」
一言叫ぶと、宵人が怯んだ隙に腕を解き、再び視線を逸らしてしまった。
まだ顔の赤みは残っているが、照れからくるものではなく、これは怒りからくるものだろう。
流石にからかいすぎたかと、宵人は小さくため息を吐いた。
怒らせておくのも面倒だしと、今度は優しく螢に話しかけてる。
「おい、怒ってんのか?」
「・・・・・・」
「悪かったよ。やりすぎた」
「・・・・・・」
「おい、チビ」
「・・・・・・」
「チビー」
「・・・・・・」
「螢ちゃん」
「・・・・・・」
いつもなら『チビじゃねぇ!』『螢って呼ぶな!』と反応してくるはずの呼び方にも反応は返ってこない。
あまりのスルーっぷりに、どうしようもなくなった宵人は、とりあえず強制的にこちらを向かせる事にした。
「おい」ともう一度声をかけつつ、螢の肩へと手を伸ばそうとして・・・・・・
──────────伸ばせなかった。
不意に見えたその表情は、その場にそぐわないほど穏やかで。
先程まで怒っていたかと思っていたのに、怒っている雰囲気はまるで感じず。
その反面、どこか物悲しそうに、先程と同じ場所を見つめていた。
宵人がチラリとそちらへ視線を泳がしてみれば、目に入るのは窓の外の真っ暗な闇。
そして、窓に映る宵人と螢の顔。
窓の中の螢もまた、悲しそうな目をしたまま、じっと己を見つめ返している。
お前は何を見ているんだ?
何がそんなに悲しいんだ?
隣に座る螢に視線を戻してみるも、その真意は上手く読みとれない。
しかし、寂しそうなその視線が、何故か酷く宵人を不安にさせて。
宵人は思いっきり螢の体を抱きしめると、そのまま2人、床へと沈みこんだ。
FIN
柚木ちゃんのオリジナル作品に登場するオリキャラCP 『宵人×螢』を書かせて頂きました!
この2人の設定に関しましては、柚木ちゃんのサイトをご参照ください。 → 柚木屋
補足説明をしておくと、螢が見ていたのは、窓に映る自分と、自分の中にいるもう一人の自分(景)の姿です。
柚木ちゃんからのメールに、景が『螢、君を想ってる宵人の気持ちに見てあげて』って思ってると書かれてて、
思わず盛大に頷きました(笑)
私もこれを書きながら、螢!早く気付け!って何度も思ってました(笑)
流石原作者様、さらっと素敵な事を言っちゃうんだからもう・・・!
更に嬉しい事に、なんと柚木様がこの小説を元に、宵螢イラストを描いてくださいました!
柚木様の素敵宵螢イラストはこちら → 宵螢イラスト
本当にありがとうございます(*´▽`*)
では、またまた素敵なキャラをお借りさせて頂き、本当にありがとうございました☆
※キャラの原作者様である柚木様のみお持ち帰り可能です。
(2011・6・30)