たまには君とこんな時間も
─────さて、どうしたものか。
目の前で気持ち良さそうに眠る恋人の姿を眺め、宵人は立ち尽くしていた。
螢が宵人の家へと尋ねてきたのは、ほんの数分前。
とりあえず、いつも通り宵人の部屋へ招き入れて。
喉が渇いたと言うから飲み物を取りに下へ降りて。
お茶を片手に戻ってきてみれば、宵人のベッドでスッカリ寝入ってしまった螢がいた、という訳だ。
冷蔵庫からお茶を取り出し、コップへ注ぐだけの単純な作業。
別に電話があったわけでも、トイレに立ち寄ったわけでもない。
長く見積もっても、部屋から離れていたのはものの2〜3分だ。
「お前はどこぞの眼鏡かよ・・・」
宵人の脳裏に浮かぶのは、黄色いポロシャツを着た大きな眼鏡の少年。
彼の特技は3秒で寝ることだったはずだ。
昔、テレビか何かで偶然聞いた他愛無いトリビアネタだが、妙に記憶に残っている。
ついでに、いつも彼の隣にいる青い猫型ロボットを思い出した所で、宵人は思考を螢に戻した。
はぁ、と一つ息を吐き、ベッドの淵へと腰掛ける。
ギシッと音を立ててベッドが沈んだが、目の前の少年は一向に起きる気配がない。
転寝ではなく、結構な深さまで寝入っているようだ。
珍しく自分から訪ねてきたくせに・・・と、宵人は恨みがましく螢の寝顔を睨みつけた。
一体どうやって起こしてやろうか。
顔に落書き。
背中に氷。
全身くすぐる。
そんな他愛無い悪戯を幾つか考えつつも、どの方法にするか、体はしっかりと選択済みなようで。
宵人は体をゆっくりと螢の上へと覆いかぶせていく。
口元には、決して純粋とは言い難い、意地の悪い笑みが浮かんでいる。
するりと服の中に手を入れ、柔らかい素肌へと指を滑らせる。
やわやわと撫でてやれば、ピクリと螢の体が身じろいだ。
「早く起きねぇとこのまま襲っちまうぜ、螢ちゃん?」
耳元で囁くように低音を吹きかけてやると、螢はもう一度くすぐったそうに身を捩った。
ん〜、と小さく声をあげ、モゾモゾと動き出した螢に、起きたか?と少し体を浮かせてみるが、どうやらまだ眠りの世界からは帰ってきていなかったようだ。
そのまま宵人の手を払いのけるように寝返りを打つと、またスヤスヤと穏やかな寝息を立てだした。
宵人としてはまさに面白くない展開だ。
いつもなら身の危険を敏感に察知する螢だが、今日はそんな危機感地能力も眠りについているらしい。
本気でこのまま襲ってやろうか。
そんな物騒な事を考えながら、再び服の中へ手を侵入させ──────────そこで宵人の動きは止まった。
(そういえば、大会が近いっつってたな・・・)
螢は剣道部に所属している。
普段から筋トレを趣味としているだけあって、かなりの腕前らしく、今大会にもエントリーしている。
その為、朝も早くから夜遅くまで、それこそ休日をも潰して部活三昧になっている。
その上、掛け持ちで所属している家庭科クラブの方にまで律儀に顔を出していたというから驚きだ。
今日は日曜日。
流石に部活も休みだったらしいが、どう見ても前日までの疲れが残っているのは否めない。
中途半端な体勢で止まる事、たっぷり1分半。
チッ、と小さく舌打ちすると、宵人は螢の上から体をずらし、そのまま隣に寝転んだ。
横向きになって螢が目に入るように体勢を整える。
さらりと頬にかかる柔らかそうな長い髪。
白いけれど、病的ではなく健康的な肌。
髪と同じ色をした長い睫毛。
筋の通った形のいい、どこか丸みを帯びた鼻。
先程は気持ち良さそうに見えたが、よく見ると眉間にしわを寄せている。
・・・嫌な夢でも見ているのだろうか?
無意識に宵人の手が螢へと伸びる。
そっと髪を撫でてやると、安心したのか、ふわっと表情が和らいだ。
(・・・たまには・・・)
こういう日があってもいいかもしれない。
そのまま螢を腕の中に閉じ込め、自分もそっと目を閉じる。
フワリと香ってくる螢の気配が妙に安心感を誘った。
しかし腕の中、動く気配に目を開いてみれば、螢がキュッと宵人の服を掴んでいるのに気付いた。
(おいおいおい・・・!)
不意に見せられた恋人の可愛い姿に、宵人の心臓がドクンと大きく飛び跳ねる。
普段は意地っ張りでなかなか素直にならない螢が、素直に甘えているのだ。
流石の宵人だって調子が崩れてしまうというの。
チラリと相手の顔を覗き見てみれば、心なしか微笑んでいるように見えた。
たったそれだけの事に、宵人は自分の顔が熱くなるのを感じた。
(・・・チクショウ・・・)
こんな顔、間違ってもコイツには見せられない。
螢が目を覚まさない事に、安心と少しばかりの感謝を覚えつつ、宵人はもう一度螢を抱きしめた。
FIN
柚木ちゃんのオリジナル作品に登場するオリキャラCP 『宵人×螢』をまたまた書かせて頂きました!
特に何かあった訳ではないのですが、このCPが好き過ぎてつい衝動的に・・・(笑)
この2人の設定に関しましては、柚木ちゃんのサイトをご参照ください。 → 柚木屋
前回の宵螢は、折角の柚木ちゃんのお誕生日祝いだというのに暗いお話になってしまったので、
今回はいかに甘く幸せそうにするかをモットーに書かせて頂きました。
寝てる螢はまだしも、宵人が何だか凄く別人になってしまった気がしてます;;
柚木ちゃんはまた書いていいよと言って下さってるので、次はもっと宵人らしくなるよう精進したいと思います!
(↑まだ書く気満々(笑))
※キャラの原作者様である柚木様のみお持ち帰り可能です。
(2011・4・7)