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レシラムに選ばれたのは、真実を求めた僕。

ゼクロムに選ばれたのは、理想を求めた君。

どちらが本物の英雄か確かめる為のバトル。

 

勝ったのは、君だった。

 

 

 

 カラー 

 

 

 

「「久しぶりだね、トウヤ」

数ヶ月ぶりに会った君は、元々大きな目を、更に大きくしてこちらを見つめていた。
食べていたヒウンアイスを落としかけながら。

「・・・・・・N?」

ポツリ呟かれた音が、優しく耳の奥をくすぐる。
高すぎず、低すぎず、穏やかな波に揺られているような心地よい声。

僕はこの声が好きだ、と思う。
しかし、今までトウヤの声を聞いた事はそんなに多くない。
というのも、彼は基本的に無口だからだ。
お喋りな僕とは正反対。
まぁ、これまで僕が一方的に話すばかりで、彼の話を聞く機会自体なかったんだけども。

 

「何でここに・・・?」

不思議そうに尋ねるトウヤ。
それもそのはず。
あの日・・・どちらが英雄か決める為に、トウヤに挑んで負けた日。
僕はレシラムと共に「サヨナラ」と言い残し、イッシュを飛び立った。
トウヤも、まさかこんなに早く再会するとは思ってなかったんだろう。

「レシラムがね、ゼクロムに会いたいって聞かなくて」

レシラムとゼクロムは、元は一つだった存在。
遠く離れていても、お互いの居場所を感じとれるらしい。
だから、レシラムにゼクロムの気配を探ってもらい、ここまで来たんだ、と説明する。

「・・・レシラムがゼクロムに・・・?」
「うん。立ち話もなんだし、場所移動しようか?こんな街中じゃ、2匹を出したら騒ぎになっちゃうし」
「あ・・・うん」

 

 

 

 

 

やってきたのは、ヤグルマの森の奥深く。
ここなら人もめったに来ないし、レシラムとゼクロムを出しても目立たない。

早速2匹をボールから出すと、互いに懐かしむ様に身体を寄せ合い、話し始めた。
彼等も彼等で、積もる話があるのだろう。

その様子を微笑ましく見ていると、ふと視線を感じた。
頭一つ下、隣にいる彼の顔に目をやると、彼は真っ直ぐこちらを見つめていた。

「えーっと・・・トウヤ?」

話しかけてみるも、返事は返ってこない。
ただただ、じっと真っ直ぐな瞳が僕の顔を捉えている。

・・・怒っているのだろうか?
急にいなくなって、急に帰ってきたのだから、それが当たり前なのかもしれない。
怒らせるつもりはなかったんだけどな。
僕はポケモンの気持ちは分かるけど、人間の気持ちは今一つ分からない。
・・・僕は、不完全だから・・・。

 

僕が困っていると、トウヤは急に視線を逸らし、その場に腰を下ろした。
その一挙一動をボーっと見ていると、再びトウヤの瞳が僕を捉える。

「座れば?」
「えっ・・・あ、うん」

促され、隣に腰を下ろす。
折角会えたのに、なんか気マズイな・・・。
どうしよう・・・。

「・・・・・・で?」
「へ?」

何が「で?」なのか理解できず、思わず質問を質問で返す。

「だから、僕に会いに来た理由」
「理由?・・・って、さっきも言った通り、レシラムが・・・」
「嘘付け」

キッパリと否定され、言葉を続けられなくなる。

「・・・なんで?」
「何となく」

あんなにキッパリ否定したくせに、理由は酷く曖昧で。
でも、トウヤの言葉に迷いは感じられない。

敵わない、と思った。

 

「・・・この数ヶ月、レシラムと色んな所に行ってみたよ。そして、色んな人に出会った」

ゆっくりと今までの事を話しだす。
色んな職業の人間と触れ合った事。
色んな所にいるポケモンを見てきた事。
トウヤは、いつもの様に、何も言わず静かに聞いてくれている。

「でも・・・分からなかった」

 

人を好きだというポケモンは沢山いた。
ポケモンを大切にしている人も沢山いた。

しかしその一方で、ポケモンを傷つけ、道具としてしか見ていない人も沢山いた。
そいつらの犠牲になり、苦しんでいるポケモンも沢山いた。

人とポケモンは確かに分かりあえる。
しかし、本当にそれでいいのだろうか?
その陰に隠れてはいるけれど、苦しんでいるポケモン達は、確かに存在している。
中には、かつて人間を信じ、共に歩んでいたポケモンもいた。
しかし、人間に裏切られ、人間を怨む様になった。

そんなポケモンが言った一言が、今も僕の中に引っかかっている。

 

 

───── 最初から、人間なんて信じなければ良かった ─────

 

 

楽しい時間だって確かにあった。
だけど、それ以上に心の傷が大きすぎて・・・。

やはり、ポケモンは人間から解放されるべきではないのだろうか。
そうすれば、彼等はもう悲しい思いをする事もないはずだ。

・・・でも、そう考えた時に必ず思い浮かぶのは、トウヤの事だった。
ポケモンと心を通じ合わせ、共に生きるトウヤ。
トウヤが間違っているとは、今の僕にはどうしても思えない。

 

「何が正しいのか、僕にはもう分からないよ・・・」

膝を抱え、目を閉じる。
トウヤに会えば何か分かるかもと思ったけど、やっぱり分からない。
トウヤのポケモンがトウヤの事を好きなのは凄く伝わってくる。
でも、それだけで本当に、ポケモンと人間が共存できる理由になるのだろうか?
プラズマ団の目的・・・ポケモンの解放は、本当に間違いだったのだろうか・・・?

 

2人の間に静かな時間が流れる。

聞こえてくるのは、ポケモンの鳴き声と、風が木々を揺する音。

 

先に口を開いたのは、トウヤだった。

「Nはさ、あの時、何で僕に勝てなかったか・・・分かる?」

何を言い出すのかと思った。
あの時僕がトウヤに勝てなかった理由なんて、簡単だ。

「僕よりトウヤの方がポケモンの事を理解していたから・・・」

僕以上に、ポケモンと心を通い合わせていたトウヤ。
元々バトルの実力があった上に、ポケモンとの信頼関係もあったんだ。
人間の事も、ポケモンの事も分かっていない不完全な僕が、勝てるわけがない。

 

しかし、返ってきたのは、予想外の言葉だった。

 

「違う」

 

驚き、思わずトウヤの方へと顔を向ける。
トウヤはレシラムとゼクロムを見ており、横顔しか見えない。

「僕には、Nみたいにポケモンの言葉なんて分からない。・・・だけど、これくらいは分かる」

トウヤが、ゆっくりと僕の方へ向き直る。

 

 

「皆・・・Nと離れたくなかったんだ」

 

 

さっきまで楽しそうにじゃれていたはずのレシラムとゼクロムも、いつの間にかこちらを見ていた。

「覚えてる?ゾロアークが、後少しの所で技を外した事。・・・ゾロアークだけじゃない。
 アバゴーラも、アーケオスも、ギギギアルも、バイバニラも・・・レシラムも、皆肝心な時に何かしらミスった事」

思い返してみると、確かにそうだ。
あのバトルは、肝心な時に皆ミスを犯していた。
技を外したり、ここ一番で先制を取られたり、急所に当てられたり・・・。

「でもそれは、単に運が悪かっただけじゃ・・・」
「1つの試合中に、そんな都合よく皆が皆ミスると思う?」
「・・・・・・」

信じられなかった。
だって僕は、不完全なのに・・・。
本物の英雄にはなれなかったのに、何故・・・。

 

トウヤは更に続ける。

「それに・・・ゼクロムだって、本当はNを助けたかったんだ」
「ゼクロム・・・が?」

どういう事なんか、サッパリ理解できない。
だって、ゼクロムが選んだのはトウヤじゃないか。
そもそも、僕を『助ける』という意味が分からない。

そんな僕の戸惑いが伝わったのか、トウヤが少し笑った。
普段あまり表情を崩さない彼の、めったに見れない笑顔。
僕を少しでも和ませようとしてくれてるのだろうか?

「ゼクロムが僕を選んだんじゃない。Nが僕を選んでくれたんだ」
「僕が、トウヤを・・・?」
「Nは、僕を一番気にしてくれてただろ?だからゼクロムは、僕に力を貸してくれたんだ。Nが一番気にかけている僕と一緒に戦う事で、Nを助けるために」

じゃなきゃ、伝説のポケモンであるゼクロムが、クイックボール1発で捕まる訳ないだろ、とおどけて見せる。

トウヤはあの時、ゼクロムをクイックボール1つだけで捕まえて見せた。
戦う事なく、傷つけることなく、ゼクロムを仲間にした。
それこそがトウヤが英雄である証だと思っていたが、違うのだろうか・・・。

 

「僕はNが思ってる程凄い人間じゃないよ。バトルにだって何度も負けた事があるし、知らず知らずのうちに人やポケモンを傷つけてしまった事だって沢山ある、不完全な人間だ」

『不完全』
その言葉にピクリと身体が反応する。
トウヤを見ると、まるでそれを狙っていたかのような表情で僕を見ていた。

「人間は・・・ううん、人間だけじゃない。ポケモンだって、誰しもが皆、不完全なんだよ、N」

トウヤの瞳が真っ直ぐに僕を捕えている。
逸らせない。

「不完全だからこそ、助けが必要になる。不完全だからこそ、温もりを求める。だから、人間とポケモンはお互いを求めあい、助け合おうとするんだ」

だから、と一息置き、再びあの言葉を口にする。

「お前のポケモン達は皆、お前と共に生きたいと願ったんだ」

 

レシラムとゼクロムに視線を戻し、トウヤは続ける。

「ゼクロムは分かってたんだよ。レシラムを通して、お前のポケモン達が、お前と離れなくないと思ってる事を・・・。
 そして、Nも本当はそう感じている事を・・・。だから、不完全な僕に力を貸してくれたんだ」

レシラムとゼクロムが、ゆっくりと頷いて見せた。

「Nは、人間を好きだと言ったポケモンを見たのは、僕のポケモンが初めてだと言ったよね?
 ・・・でも本当は、もっと前から知ってたんだろ?人を・・・Nを好きなポケモンがいるって事」

 

 

 

脳裏に、忘れたはずの記憶が蘇る。

 

傷つけられたポケモン達。
それを介抱する幼い僕。

「ごめんね・・・ごめんね・・・」

人を信じられないという彼等に、僕は何度も謝った。
精一杯の愛を持って接した。
もうこれ以上、傷つけない為に。
大好きなトモダチだから。

 

そして、いつしか彼等も僕には心を開いてくれる様になった。

でも・・・・・・

 

 

『大好きだよ、N』

 

 

その言葉を、僕は記憶の底に封じ込め、知らないふりをした。
ポケモンを解放するには・・・僕がポケモンと別れるには、そうするしか方法がなかったんだ。

 

 

 

気がつけば、僕は声を上げて泣いていた。

何が悲しいのか分からない。
何が嬉しいのか分からない。
色んな感情が後から後から込み上げて来て、涙が止まらなかった。

そんな僕を、優しく抱きしめ、子供をあやす様にトウヤは言う。

「偉そうに言ってるけど、僕も本当は何が正しいのか分からない。人間とポケモンは確かに分かりあえると思うけど、Nの言う様に分かりあえない人達だって確かに存在してるんだから」

でもね、と今度は僕の顔を覗きこむトウヤ。

「僕達は分かりあえると知ってるからこそ、傷ついたポケモン達を助ける事だって出来ると思うんだ」
「ポケモンを・・・助ける?」

トウヤがコクリと頷いてみせる。

「ちゃんと分かりあえてる人とポケモンを引き剥がすのは可哀相だけど、プラズマ団の言う通り、ポケモンを傷つけている人からは、
 一時的にだけでもポケモンと離れさせた方がいいと思うんだ。そして、傷ついたポケモンを助け、傷つけた人を説得する。
 それは、人とポケモンが分かりあえると分かっているからこそ出来る事だろ?」

目からウロコ、とはまさにこの事を言うのだろう。
僕はずっと、必ず白黒つけなければいけないと思っていた。
傷つけられているポケモンを見殺しにするか。
それとも、完全にポケモンと人間を離してしまうか。

 

でも、どちらも正解じゃなかったんだね。

白でもなく、黒でもない、第三の答え。

白にも黒にも染まっていない、透明なキミが出した答え。

 

「僕にも出来るかな」

呟くと、

「Nなら大丈夫。きっと出来るよ」

トウヤは笑顔で背中を押してくれた。
トウヤの優しい声が、僕の心にじんわりと温もりを広げていく。

 

また一筋、涙が頬を伝った。

 

 

 

 

 

 

 

「もう行くのか?」
「うん、早速やりたい事が見つかったからね」
「そっか」

ニッと嬉しそうに笑うトウヤに、僕も笑顔を返す。

今日はトウヤの笑顔が沢山見れた。
僕が大好きなあの声も沢山聞けた。
それだけでも十分なのに、トウヤは僕の夢まで一緒に探してくれた。

来て良かったと、心から思った。

 

「それじゃあ・・・」

レシラムに乗ると同時に、トウヤが叫ぶ。

「N!」

下を見れば、笑顔のトウヤ。

 

 

「また会おうな!」

「トウヤ・・・」

 

 

かつて「サヨナラ」と言って別れた時、本当はもう二度と会わないつもりだった。
彼は英雄で、僕は不完全な存在だと思ったから。

だけど、今は違う。

 

笑顔で頷き、僕はトウヤに言葉を返した。

 

「ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

レシラムの背に乗り、大きな青い世界へと飛び立つ。

空はどこまでも青く、澄み渡っていた。
白い雲がゆっくりと流れていく。
下には、カラフルな街が広がっている。

 

「レシラム・・・世界は、綺麗だね」

 

レシラムが嬉しそうに微笑んでいる。

 

「世界は、こんなにも鮮やかだったんだね」

 

 

 

 

白と黒しかない僕の世界に色をくれたのは、透明なキミだった。

 

キミの世界はいつも透き通っていて、色んな色を反射して、クルクル表情を変える。

 

それが、僕には羨ましかった。

 

だから、僕はキミを選んだんだ。

 

 

 

僕の世界には、まだほんの少しの色しかないけれど。

 

でも、きっとこれからは、自分の力で増やして行けるはずだ。

 

 

 

大好きなトモダチと共に。

 

 

 

 FIN 

 

 


柚木様から、『人を信じない、愛を知らないNと、皆に愛され、Nをも導こうとする男主人公』というリクエストを頂いてたので、
調子に乗って『ポケモン黒白』の1回目のEDを見た後に書かせて頂きました。
捧げ物に入れるかどうかで迷ったけど、一応こっちに入れときます。

(2011・2・10)

 

 

ばっく