あと何回アイツを突き刺せば、このループから抜け出せるんだろう・・・。

 

 

 

 むげんループ 

 

 

 

「待てっ!灰原っ!!」

 

お決まりのセリフを叫びながら、霧島が後を追いかけてくる。
俺は全速力で逃げながらも、どこか冷めた気持ちでこの状況を見ていた。

この後は屋上へ行って、俺がシーツの影で待ち伏せし、霧島を刺す。
そして霧島が俺に体当たりを食らわせ、二人で屋上から落ちて死亡。
そう筋書きが決まっている。

もう何度も繰り返しやってきた事だ。

何度も。

何度も・・・。

 

 

 

 

 

霧島の記憶が戻るまで。

そう決意して、アイツの手を振りほどき、もう一度走り出したあの日。
あれから一体どのくらいの時間が流れただろう。

最初は、単純に嬉しかった。
霧島とまた、自分の全てを懸けたギリギリの鬼ごっこが出来る事が。
霧島がまた、真剣にぶつかってきてくれる事が。

どうせ二人とも死んでいる。
捕まった所で刑務所に行く事もない。
だから、純粋にこの『ゲーム』を楽しんでいた。

 

しかし、何度同じ事を繰り返しても、霧島は全て忘れてしまう。

何度最期を迎えようとも、次に目を覚ました時、アイツは何も覚えていない。

そして、再び鬼ごっこが始まる。

 

あまりに回数を重ねすぎて、もう一体何回繰り返したか覚えていない。

ある時、霧島が目覚めた瞬間に全て説明してやった事があった。
またある時は、大人しく捕まって、霧島の好きなようにやらせてみた事もあった。
そのまたある時は、今までの事は全部お前の夢だと、自分達は友達だと嘘をついてみた事だってあった。

しかし、それも全て無駄だった。

俺が霧島を刺そうが刺さまいが、一定時間を越えるとアイツの腹から突如血が溢れだす。
その後、二人共その場に倒れみ、次に目覚めると決まって病院の玄関前に転がっていた。

せめて霧島の記憶が残っていないかと期待したが、アイツの記憶はやはり、いつもの様にリセットされていた。

そして、今回もきっと同じ事の繰り返し・・・。

 

 

 

 

 

「灰原ぁ!!」

後ろから霧島の声が聞こえる。
俺を追って、必死に走っているアイツの声が。

もう、聞き飽きてしまった声が。

ギリ、と唇をかみしめ、屋上のドアへと手を伸ばす。
しかし、その手はドアノブを掴む事はなかった。

 

バカバカしい。

どうせどんなに足掻いても結果は変わらない。
霧島が何度自分の死を自覚しようとも、このループからは抜け出せないんだ。
それなのに何故ワザワザ逃げる必要がある。

 

逃げるのを止め、そのままドアの前に立ち尽くす。
数秒の後、霧島が追いつき、俺の腕を掴んだ。

「捕まえたぞ灰原!」

息を切らせ、それでも俺を逃がすまいと、霧島が掴んだ手に力を込める。
その痛みすら、もうどうでもいいと思えた。

「警察へ突き出すなり何なり・・・好きにすればいい」

「灰原・・・?」

今まで逃げ回っていた男の突然の豹変には、流石のコイツも面食らったらしい。
怪訝そうな、まるで不思議な生物でも見るかのような目で俺を見ている。

だが、だからどうした。

 

「どうせアンタは全部忘れるんだ」

「忘れる?一体何の事だ?」

ほら、やっぱり覚えてないじゃないか。
前回も、その前回も、そのまた前回も。
俺達がずっとこうして同じ事を繰り返していると、アンタは一度でも覚えていた事があったか?

「・・・何でアンタは全部忘れるんだ・・・」

「灰原・・・?」

「こんな事、もう何回繰り返してると思ってるんだ?アンタ、記憶力はいい方だって言ってたよな?
 じゃあなんで何も覚えてないんだよ。いつもいつもゲームがリセットされる度に忘れやがって。
 アンタだけ・・・勝手に好きなだけ一人で彷徨ってればいいだろ?
 何で俺までこんな終わりのないゲームに付き合わされなきゃいけないんだ」

霧島は何も言わずに俺の言葉を聞いている。
恐らく俺の言ってる意味が分からず、何も答えられないのだろう。
記憶がないのだから当たり前だ。
それくらい分かってる。

しかし、その態度に無性に腹が立って、今まで我慢していたものが咳を切ったように溢れだす。

 

「いい加減思い出せよ!何で忘れるんだよ!」

 

声が無意識に震える。

掴まれた腕の力が、少し緩んだ気がした。

 

「何で俺は・・・忘れられないんだよっ・・・!!」

 

 

 

 

 

記憶が残らない霧島を、何度羨ましいと思っただろう。
記憶さえなければ、同じ事を何度繰り返そうとも飽きが来る事はない。
何度でも鬼ごっこに付き合ってやるさ。

けれど、俺の記憶は消える事はない。
何度繰り返そうとも。
何度死の瞬間を迎えようとも。
ループすればするほど、記憶が積もっていく。

 

 

 

 

 

涙で薄れる視界に、ぼんやりと赤い色が浮かび上がる。
同時に、鈍い痛みが全身を襲う。

どうやら今回のタイムリミットが来たらしい。

掴まれていた腕の感触が消え、ドサリと音がした。
それが霧島が倒れた音だと理解する前に、俺の体も床へと沈んでいった。

 

目を開けたらきっとまたあの場所にいるんだろう。

 

そしてまた────────

 

 

 

 

 

 

 

いっそこれが全て夢であってほしいと、何度も願った。

全てが俺の作りだした幻であってほしいと、何度も叫んだ。

 

これは俺への罰なんだろうか。

 

 

 

なぁ、霧島。

あと何回繰り返せばこのループは終わる?

あと何回アンタを突き刺せば、俺はアンタの記憶に残れるんだ?

 

 

 

 

 

 

 

「灰原・・・?」

 

霧島の声が聞こえる。

聞き慣れた声が。

聞き飽きたセリフが。

 

「待てっ!灰原っ!!」

 

 

 

今日もまた、終わらない鬼ごっこが始まった。

 

 

 

 

 

───── エンドレス リピート ─────

 

 

 

 FIN 

 

 


『零〜月蝕の仮面〜』に出てくる耀ちゃん&長さんの鬼ごっこの真相考察。
2人の鬼ごっこは、8年間ずっと無限ループしてるのではないかという説を元に書いてます。

(2011・2・10)

 

 

ばっく