雨宿り 

 

 

 

ポタポタと音を立てて降りだした雨は、見る間に土砂降りになった。

列車を降りた辺りまではあんなに晴れてたのに。
もう少しで教団へ到着って時にいきなりザーッなんて、タイミング良すぎよね。
慌てて駆け込んだ軒下だけど、こんな時に限ってお店も休業。
ホント、ツイてないな。

 

ぱたたと屋根に当たる雨音をBGMに、体に付いた雨雫をハンカチで落とす。

「ホームまでもう少しだったのにね」

隣のパートナー、もとい、今回の任務同行者に話しかけてみるけど、返答はなし。
でもそれは今回に限った話じゃなくて、いつもの事。
分かってはいたけど、こうも綺麗にスルーしてくれなくてもいいんじゃない?なんて。
アレン君に言わせたら、言葉のキャッチボールがなってませんよ神田、って所かしら。

軒下から覗くように空を眺めながらもう一言。
今度は独り言の音量で。

「すぐ止むといいんだけど・・・」
「西の空が明るい。通り雨だ。直止むだろ」

独り言のつもりだったけど、今度は返答あり。
こっちが返ってこないと思ってたら返すんだから。
神田ってホント、天邪鬼。
そんな天邪鬼な態度してるから、いつもラビにからかわれるのよ。

 

そう思いながらも、自分の口元が緩んでるのは紛れもない事実で。
彼の一言一言に、こんなにも反応してしまう自分をちょっぴり恨めしくも思う。

 

「晴れたら虹、見えるかしら?」

緩む口元を誤魔化すように話しかければ、「さぁな」と短く答えが返ってくる。
それだけで心臓がトクンと波打つ。

 

いつもは二人っきりで話してたって全然平気なのにな。

この雨のせいかしら?

 

 

 

降り続く雨。
鳴り止む気配のない不規則なBGM。
自然と途切れていく会話。

どうしよう。何だか緊張してきちゃった。

ホント、早く止まないかな、なんて空を見上げるけど、
軒下から覗く景色は未だ曇り空のまま。

さっきから全然時間経ってないんだから、当たり前なんだけどね。

 

「止まないね・・・」

ポツリ、呟くと。

「・・・あぁ」

返ってくる低い声。

 

そういえば、神田はいつ声変わりしたんだろう?
もう随分昔の事の様な気もするし、つい最近の事の様な気もする。

 

出会った頃はもっと声も高くて、身長も私と同じくらいで。
成長前の体は線が細くて、本当に女の子みたいだった。
女の子だと思って『ユウちゃん』なんて呼んだら、スゴイ形相で睨まれたっけ。

今となっては身長もぐんぐん伸びて、声だって低くなって。
見た目は未だ細く見えるけど、筋肉も付いて、もう女の子に間違われる事なんてない。
逆に、女の子からキャーキャー言われてるくらい。

 

チラリと盗み見るように斜め上を見る。
そこには、ジッと、流れる水を眺める眼差し。
真っ直ぐで、曇りなくて、しっかりと前を見据えてて。

 

このキリッとした切れ長の瞳も、純粋なそれから随分大人っぽいモノに変わった。

無口で短気なのはあの頃から全然変わってないけど。
苦手だった人付き合いも、昔に比べて随分マシになってきたんじゃないかしら?

 

 

いつの間に、こんなに逞しく成長しちゃったんだろう。

 

 

日に日に『男』として成長してる幼馴染を見ていると、自分の頬が熱くなるのを感じた。
羞恥に、急いで自分の足元へと目線を下げる。

いつも見慣れてるはずの顔が、妙に大人っぽく見えた。

きっと、雨で視界が悪いせいね。

 

 

 

目的地を仰ぐように目を凝らせば、冷たい風が頬を吹き抜ける。

まだ秋とはいえ、雨が降ってるとやっぱり冷えちゃうな。
もう少し厚手のコート羽織ってくれば良かった。

ブルリと一つ身震いをすると、隣から「チッ」と小さな舌打ちが聞こえた。

そんな薄着してるからだって怒られちゃうかしら?

 

恐る恐る音のする方に目を向けようとしたら、急に、ふわっとした温もりが両肩に降ってきた。

 

「神田、これ・・・」

「いいから羽織ってろ」

 

肩にかけられたのは、神田が来ていたはずの黒いコート。
まだ温もりの残るソレは、私の冷えた体を溶かしていく。

 

「ありがとう」

 

こういう、さり気ない優しさは昔から本当に変わらない。

 

私が泣いてると、必ず一緒に居てくれて。

 

私が怖がってると、ずっと手を握っててくれた。

 

 

 

 

神田が優しいのなんて、昔から分かってるんだから。

もう少しだけ、甘えてもいいでしょ?

 

 

 

 

悪戯っ子の様に笑いながら、彼の冷えた手に、そっと自分の手を重ねる。

 

「・・・なんだ?」

「手、凄く冷たいの。だから、ね?」

 

そう言ってニッコリ微笑めば、彼はプイと顔を反らす。

直後に聞こえたのは、小さな「好きにしろ」という言葉。

 

私の角度からは表情なんて全然分からなかったけど、

神田の耳が少し赤くなってるのだけは見える。

 

 

 

ねぇ?貴方も今、私と同じ気持ちなんでしょう?

 

 

 

キュッと繋いだ掌に力を込めれば、より強い力で握り返された。

 

 

 

 

空気は冷たいのに、繋いだ手はどこまでも暖かくて。

 

 

冷たい空気とアナタの温もりに包まれながら、

このまま、

雨が上がらなければいいのにと思った。

 

 

 

 FIN 

 

 


JYO様からのリクエストで、『神リナ小説』でした。
神リナで任務に行ったら急に雨が降り出して・・・というお話です。
神リナは初めて書いたのですが、少しは雰囲気出てたでしょうか・・・?

それにしても、神リナっていいですよねぇ(*´▽`*)
幼馴染設定とか、本当に最高過ぎます!
昔 リナリーは、毎回神田の所に逃げ込んでたとか、ホントもう私を萌え殺す気かと・・・。
あと、いつもは無愛想な神田だけど、リナリーには敵わないって所がまた、もう・・・っ!
ゲーム『奏者ノ資格』でも神リナシーンいっぱいあるとかで、まだそこまで進んでませんが本当に楽しみです♪

ホント、早く本編でもくっ付けばいいのに(*´▽`*)

では、リクエストありがとうございました!

(2008・11・4)

 

 

ばっく