花独言 

 

 

 

皆様こんにちは。

東の方の国では『日本晴れ』というのでしょうか。
もうすぐ冬だというのに思わず出かけたくなる様な陽気ですが、生憎私は一人で動けない身。
窓際でポカポカ日向ぼっこしながらこの陽気を楽しんでます。

さて、家の者は皆出計らってますので、少し私の独言でも聞いて頂けますか?
私のご主人様のお話です。

 

名前はクロス・マリアン。
職業はエクソシストで、元帥の資格をお持ちになっておられる実力者。
男性からしたら、自分勝手で暴力的で金遣いが荒くて女遊びが激しいロクデナシ。
女性からしたら、カッコよくて強くて頭もキレてとても優しい素敵な紳士。
どちらの意見が正解かなんて私には分かりませんが、
私にとっては、まだ幼い私を引き取ってくださった大切なご主人様です。

 

そしてクロス様を影で支えているのが、弟子であるアレン・ウォーカー。
アレン様にしたら、支えてるつもりはないのでしょうけれど。
職業は見習いエクソシスト、といった所でしょうか。
クロス様同様、彼も『テキゴウシャ』らしいのですが、まだ実戦経験も薄く、専ら修行中との事。
たまに腹黒い一面を見せる事もありますが、普段は素直な優しい子です。
また、クロス様に代わって私の世話をしてくださるのもアレン様です。

 

私が初めて来た頃から喧嘩が多く、
アレン様からお聞かせいただく話にも、毎回必ずクロス様絡みの愚痴が入っていたものですから、
最初の頃は、一緒に住んでるのに仲が悪いのではないかと余計な心配をしたものです。

それが勘違いだったと気づいたのは、つい最近の事。

 

 

 

 

 

クロス様は各地を転々とする事がお好きらしく、その日も新しい居住地へ向かっている途中でした。
親切な旅芸人一家の馬車に乗せていただき、他愛無い世間話に花を咲かせるアレン様。
クロス様は、時折話に加わりつつも、始終流れ行く風景を眺めておいででした。

太陽が一番高く上がった頃だったでしょうか。
通りかかった小さな街で、丁度何かの祭典が行われていました。
軽快なリズムを刻む音楽に、人々の明るい笑い声。
道路の脇に並んだ屋台からは、食欲をそそる良い匂いが漂ってきます。

ここで休憩がてら昼食を取ろうというお話になり、馬車を脇に止め、皆様降りていかれました。

一家の方々もアレン様もとても嬉しそうにお顔を綻ばせてらしたのですが、
ただ一人クロス様だけは、少し眉間に皺を寄せて、険しい表情をしておられました。

 

クロス様が前に話してらっしゃった事。

『人が集まればアクマも集まる』

クロス様はご立派なエクソシストですから、如何なる時もそれを忘れず、
いつ何があっても即座に対応出来る様心がけなければなりません。
今はまだ正式なエクソシストではないアレン様も、今は楽しんでおいでですが、
エクソシストになられた暁には、クロス様の様に細心の注意を払わなければいけなくなるのです。

 

とはいえ、如何せん私にとっては『興味がない』といえばそれまでの事。
所詮、アレン様から少々話に聞くだけの浅知恵ですから、本当の大変さなど到底理解できません。
なので、そんなクロス様を見ていると、差し出がましいとは思いつつも、つい考えてしまうのです。

アレン様と一緒に楽しんで来ればいいのに、と。

アレン様は大人びているとはいえ、まだ子供。
保護者代わりであるクロス様と一緒に遊びたい事もおありでしょうに。
現に、こういう時のアレン様は時折、ふっと寂しそうな表情をなさるのです。
私にとって一番近い存在はお世話をしてくださるアレン様ですから、
アレン様が悲しいと私も悲しく思うのです。

また、仲があまり宜しくないのならば尚更、親睦を深めるいい機会になるかと思ったのです。

しかし、そんな私の思いも空しく、昼食後もクロス様は険しい表情を緩めず、
アレン様も少し寂しそうな表情のまま、クロス様の後ろを歩いておいででした。

 

こちらに向かってくるお二方を見ながら、思わずため息をついたその直後です。

そんなお二方の表情が、パァッと明るいものに変わる瞬間があったのです。

 

太陽の光がキラリと反射したのに気づき、アレン様が一つの屋台を覗き込みました。
そこは天然石のお店らしく、先程の光は透き通る色をした石が原因でした。
太陽の光を浴びてキラキラ輝くそれに心奪われたアレン様は、じっと見入ってらっしゃいました。

私は馬車の中でしたから、何を話されているのかは聞こえませんでしたが、
どうやら店主と思しき女性に、石の説明を受けているご様子。

クロス様はというと、表情までは分かりませんが、それを咎めるでもなく、
はたまた置いていく訳でもなく、アレン様の後ろでそれが終わるのを待っている様でした。

 

しばらくそんな状態が続いたのですが、先に動いたのはクロス様でした。
不意に後ろからアレン様に何やら話しかけ、店主にお金を渡されたのです。

クロス様を驚いた目で見つめるアレン様。
それもそのはず。
アレン様のお話によると、クロス様がアレン様に何か買ってくださるなんて事、
今まで一度もなかったのですから。

店主と一言二言交わした後、くるりと踵を返し、何事もなかったかの用に歩き出すクロス様。
その後ろでは、アレン様が店主に頭を下げ、急いでクロス様を追いかけます。

 

 

その時のお二方の表情といったらもう、何と表現すればいいのでしょう。

 

アレン様は大切そうに掌の石を握り締め、まるで花が咲いたようにお笑いになって。

 

クロス様は今までの険しい表情が嘘の様に穏やかな顔をなさって。

 

まるでそこだけに春が来たような、そんな雰囲気が漂っておりました。

 

 

 

それ以外は何も・・・

クロス様がアレン様の先を歩く事も、
アレン様がクロス様に歩調を合わせて早足になってらっしゃる事も、
何一つ変わってなかったのですが、

そこには確かに優しい空気が流れていて。

私の心にも、じんわり暖かなモノが湧き上がるのを感じました。

 

 

 

優しくて、暖かくて、嬉しくて、

そして、ちょっぴり泣きそうになる事もある、私が大好きなこの感情。

 

 

 

お二方の間には、確かに『愛情』が存在していたのです。

 

 

 

馬車に戻ってきた時にはもうお二方ともいつもの表情に戻られていたのですが、
その中で私は、お二方の間にある柔らかな雰囲気を初めて感じる事ができました。

ただ一つ惜しくらむのは、お二方ともこちらに向かって歩いておいででしたから、
あの時の素敵な表情をお互いに見ていないという事。

クロス様は勘のいい方ですから、恐らく気づいてらっしゃったと思うのですが、問題はアレン様です。

アレン様の口ぶりから察するに、アレン様はあんな風に感じたのは自分だけだと考えてられる様で、
あの幸せな時間を共有してらっしゃる事に未だ気づいておられないのです。

 

 

私はただの花ですから、人間の言葉を話すことはできません。

いえ、例え話せたとしても、この事をアレン様にお話するつもりはありません。

だってこれは、自分で気づいてこそ価値のある事なのですから。

 

 

ただ・・・いつまでもお気づきにならないアレン様を見ていますと、

歯がゆくて、

もどかしくて、

つい、噛み付いてしまうのです。

 

 

 

 

 

 

 

「ロザンヌ、ただいまー」

あ、アレン様が帰ってらっしゃったようです。
皆様、私の独言なんかに付き合って頂き、本当にありがとうございました。

さて、今日は一体どんな事をしてらっしゃったんでしょうか?
きっとまた、クロス様の愚痴を交えながら楽しくお話してくださる事でしょう。

 

 

あの、花が咲き誇ったような、いつもの笑顔で。

 

 

 

 FIN 

 

 


えみる様からのリクエストで、『クロス元帥絡みの小説』でした。
内容フリーとの事だったので、まさかのロザンヌ視点です(笑)

ロザンヌの感じたクロス元帥とアレンの間にある『愛情』は、
一応、師アレでも師+アレでもどちらにも取れるように書いたつもりです。

えみる様、こんな感じのお話でもよろしかったでしょうか?
ご期待添えできてなかったら申し訳ありません(><)

では、リクエストありがとうございました!

(2008・10・27)

 

 

ばっく