山道での試練 

 

 

 

私ヒカリ、トップコーディネーターになるため相棒のポッチャマと一緒に
故郷のシンオウ地方を離れて、コンテスト発祥の地ホウエン地方で修行の旅に出ている。

 

※※※

 

次のコンテストがある街へ向け、私は山道を歩いていた。この山道はちょっぴり怖い。
道の片側が崖になっていて、柵が設置されていない。私は足に気を配りながら進んでいた。
しばらく歩いていると、山側にくぼみができていて道幅の広くなっている場所に出た。
「ね、ポッチャマこの辺でお昼にしようか?」
「ポチャ〜!」
賛成っていっているみたいに答えた、ポッチャマ、私もおなかがすいてきたころだ。
「みんな出てきてー」
そういって私は5個のボールを投げた。
「ミミロ〜ル」
「チパ〜チパリィ〜」
「ヒノヒノ〜」
「ンムウゥゥゥ」
「トゥキース」
「みんな今からポフィン作るから、楽しみに待っててね」
そういうとみんながワクワクしているのが分かった。そしてポフィンが出来上がった。
私はみんなに味を訊いてみると、みんなとても気に入ってくれた。
「良かった、これからもっといろんなポフィン作るからね」

食後もみんながおもいおもいにくつろいでいる。
こうした時間も大切であることをシンオウの旅で学んだ私は、後片付けを終えた後もポフィンの本で勉強をしながらみんなの仕草をみていた。
そして通り読み終えた後、今度はガイドブックを開き現在地を確認した、どうやら今いる場所が頂上みたい。
先を確認しようと私は道の先のほうに歩みだしおでこに手を当てながら先をみたけれど山の死角になっていて見ることが出来なかった。
「行けばわかるよね」
そう思ってみんなの場所に戻ろうとしたその時だった。
私が立っていた場所である切り立った崖の先端が突然崩れ始めた。
「きゃあああああああああ…!」
崩れた岩場と共に私は谷底へ落ちそうになった。
何とか助かろうと必死に手を伸ばしたら太い木につかまることが出来た。
でも底は見えないほど深い谷底、手を離してしまったら最後、どうやっても助からない。
足元の少し先に唯一片足が乗せられるくらいの突き出した岩場あるけれど、あとはよじる登ることなんてとても出来そうもない。
「誰か…誰か助けてー」
私の叫び声に気がついて駆け寄った、みんなが崖の先で心配そうに見ている。
もし私の手持ちにエスパーポケモンや私を乗せられるくらいの大きな空を飛ぶポケモンがいればここから脱出できるけれど今の手持ちにそのポケモンはいない。
今までならこんなとき、サトシやタケシが助けてくれたけど、今私は一人旅をしている。
ポケモンたちの力を借りるにしてもどうやって崖から登ることが出来るかも思い浮かばない。
その時パチリスとヒノアラシが何か話しかけているかと思うと2手に分かれて走っていった。
もしかして誰かいないかを探しに行ってくれたかも知れない。
だけどその前に私の手が疲れちゃったら…
いやでもそんな思いがした。
何とかここから脱出したいけど、その思いが頭から離れない。
解決策が見当たらない。
私の心は焦り始めた。
更に崖を吹き抜ける風が私の恐怖心を増幅させる。
パチリスもヒノアラシも戻ってこない。木にしがみつづけるのも時間の問題。
「このまま、私は…助からないの?もう駄目なのかな?あきらめるしかないの?」
誰にも助けてもらえない孤独な戦いに、おもわずそんな言葉を口にした。
何も出来ずに、ただ時間だけが過ぎていく。
今まで感じたこともないほどの絶望感に襲われ、なんだか手から力が抜けそうな気がしてきた。
今にもへし折れそうなくらいに心に押しつぶされそうになった私、そして
「みんな、私の手が離れちゃったらもうおしまい、みんなと一緒にトップコーディネーターの夢叶えたかった、でもここから出られない、助かる方法が…ないの。
ごめんね…みんな、私もう駄目みたい…突然のお別れだけど、みんなと一緒にいられて、今まで一緒に旅をしてくれて、私楽しかった…
ありがとう……そしてさようなら…」
ポケモンたちにそう言い残した。
もう助かる可能性は0、私は目を閉じた。
もう死んじゃうんだ。
夢を叶えたかった。
もっと旅がしたかった。
またサトシやタケシと出会いたかった。
だけどそれももうかなわない。
私の目から涙がこぼれる。
そして完全にあきらめて手を離そうとしたその時だった。
目を閉じていてもはっきりわかる、泣いているのは私だけじゃない。みんなが泣いているのを。
もう1度を目を開けてみると、ポケモンたちが泣きながら首を横に振っている。
まるで「駄目だ」っていっているように。
「み…ん…な?」
ポケモンたちから伝わってくる何かを感じた。
そしてポッチャマは泣いていたかと思うと今度は突然怒り出し、私の体をかすめるように”バブルこうせん”を放った。
ミクリカップのあの時のように、私の恐怖心が一瞬消えた。
「ポッチャマ?」
するとポッチャマは胸に円を描くように手を動かした。
その光景に私はハッとした。
私の胸ポケットにしまっている、1枚の紙切れ。
そこに私自身が書いた3つの誓い。

 

※※※

 

そうそれはホウエンに来る船中でのことだった。ポッチャマと一緒に甲板に出ていた時。
「ポッチャマもう直ぐ、ホウエン地方よ。ここから私の新たな旅が始まる。
側には、サトシもタケシも、ノゾミもケンゴもいない。正直不安でいっぱい」
その言葉に心配そうに私の顔をのぞくけど、私は続けた。
「でもね、私はシンオウ地方で沢山の人に支えられて、グランドフェスティバルに立つことが出来た。
みんなから貰った思い出も、大切なこともしっかり胸に残ってる。
だからこそ私は今度は自分の足で夢を叶えるの。
私にしか出来ないやり方で、みんなをもっと輝かせたい。もっと強くなりたい。
それにポッチャマやみんながいるから、私は独りじゃないから。だから、頑張れる。
まだまだ未熟な私だけどダイジョウブだよね」
そういい終えるとポッチャマは元気よく答えた。「勿論だよ」って言っているみたいに。

地平線の向こうから日の出と共に、ホウエンの地が見えてきた。私の新たな朝の始まり。
この朝日を元に、私はリュックから紙と鉛筆を取り出した。
「ポチャ?」
ポッチャマが不思議そうに眺めている。
「私自身で夢を叶える新たな旅を始まりを前に、誓いの言葉をたてようと思うの」

1つ 否定言葉を使わない、どんな時も前向きでいること

1つ どんな時も、ついてきてくれるポケンたちを信じること、そして自分を信じること

1つ 追い詰められても、何度失敗してもあきらめない心を持つこと

そう紙に書いた私は、朝日に向かって今紙に書いた言葉を、おなかのそこから声に出し叫んだ。
そして自分で誓ったこのことを忘れないよう胸ポケットに入れる。
「ねぇポッチャマ、この誓い忘れないよう頑張るけど、私がそのことを忘れてしまったら、あのミクリカップの時みたいに渇をお願いね」
するとポッチャマは胸をポンポンと叩いた「まかせろ」っていっているみたい。
こんなみんながいるなら、私はダイジョウブそう感じた。

 

※※※

 

ポッチャマはそのことを私に思い出させようと”バブルこうせん”を放ったんだ。
そしてみんなが私に必死に声をかけている「頑張れ、あきらめちゃ駄目だ」っていっているように。
ポケモン達のそんなメッセージに私の心に勇気の明かりが灯った。
まだほんのわずかでも助かる道はあるかもしれない。
自分で書いた誓いを、今私は1つも守っていない。
トップコーディネーターとなってママやサトシやタケシたちに立派になってまた出会いたい。
そのためにも、ここで落ちるわけにはいかない。
負けるわけにはいかない…。
私は泣くのをやめた。そして勇気をくれたポケモンたちに向きなおり叫んだ。
「みんな有難う…みんなの声、気持ちしっかり届いたよ。
これからもずっと一緒に旅がしたい。夢を叶えたい。絶対助かる方法があるはず。
だから私はもう迷わない。あきらめない。ダイジョウブ」
そう笑顔で返した。
私の声と顔つきの変化にみんなの顔にも笑みが浮かんだ。
そして私は助かる方法を考えた。
唯一ある足元の先の突き出した岩場、これを何とか活用できれば…

「ハッ…」

1つのアイデアが浮かんだ。出来るかもしれないみんなの力を合わせれば。
「ポッチャマ崖の先の側面に向かって”うずしお”」
不思議そうに顔を横にするポッチャマ。
「お願いやってみて」
私に何か考えがあることを悟った、ポッチャマはうなずいた。
「ポ〜チャ〜〜〜」
崖に隣り合うようにうずしおが揃った。
「マンムー”うずしお”にむかって”こおりのつぶて”、ミミロルは”れいとうビーム”」
「ンムゥゥゥー」「ミミロール」
”うずしお”に向かって、2匹の氷タイプの攻撃が重なり、うずしおが凍ってきた。そして
「トゲキッス、氷の塊にむかって”しんぴのまもり”」
「トゥキース」
氷の塊を覆うように重なった”しんぴのまもり”が隣り合っていて崖と氷結した。
うまくいった。こうして岩の突起までつなげて、氷の架け橋を作ればいいんだ。
ポケモンたちも私が思いついた作戦を理解したようで、連結するようにつなげていった。
その道は私のところまで8割のところまでは滞りなく進んだ。
だけどその辺りから崖が深くなってきたせいか、狙いが定めにくくなっている。
そして私を助けようと必死になりすぎて焦りが出ているのがわかる。
このままではいけない。こんなときこそトレーナーの私がなんとかしなければ。今度は私が励まさなきゃ。
「みんな、落ち着いて、焦らなくていいよ。私まだ頑張るから。指は痛いけど我慢するから。
だからみんな気持ちを1つにしよう、そうすれば出来るよ」
私の声にポッチャマが隣にいたマンムーに手を重ねる。マンムーの反対側にはミミロルも同じように。
そしてミミロルの隣にトゲキッスが手を重ねている。気持ちを1つしようとしているんだ。
気合を入れなおしたみたい。
するとトゲキッスは氷の先端に下りてきて羽を使ってみんなに指示をしている。これなら狙いが定めやすい。

そうして再び氷の道が出来始めた。だけど私の手はそろそろ限界がきた。
ずっと握り続けていたから手にマメが出来ているみたい。
心の片隅にある「手を放して楽になりたい」という気持ちが一瞬浮き出てきた。
だけど私はその気持ちを押さえ込んだ。
みるとポケモンたちは連続の技に疲れが出始めているけれど、必死に出し続けてる。それなのに私が投げ出すなんて出来ない。
それにみんなに向けて頑張るって、我慢するっていったばっかり。指の痛みが激しくなってきたけど私も必死に耐え続けた。
もう少しの辛抱だから、これを乗り越えれば、きっと私はまた強くなれるきがする。
シンオウでもスランプもあった。トラウマもあったけれど、その現実から逃げないで立ち向かった。
そして乗り越えることで、私自身もポケモンたちも一回り成長できたんだもん。
だから今だって逃げちゃ駄目。自分に打ち勝つんだ。
3つの誓いの言葉を頭の中で繰り返す。
ダイジョウブ、絶対ダイジョウブ。
私は助かるんだ。
ポケモンの達の頑張りとその気持ちが重なり体に力が沸いてくる。
まるでいまからコンテストに出るみたいに。

そうして遂に突き出した岩の先まで氷の道が完成した。指を離そうとしたけれど一瞬ためらいが出た。
もし氷の塊が着地した衝撃で割れてしまったら?
だけどその考えは直ぐに捨てた。
みんなの絆が作り上げた橋が、簡単に割れるはずがない。
みんなを信じるんだ。
私は勇気を出して、足を氷の道に向けて手を離した。

「ストッ」

両足をそろえて足を下ろした。だけど氷の道はなんともない。
しっかりとした足取りで私はみんなのところへ向かう。
そして私は指のマメ以外は何の怪我もなく無事に戻ることが出来た。
みんなとっても嬉しそうな顔をしている。

 

「ヒノヒノ〜」「チパチパ」
そこへ2匹の声が聞こえた。そして私の無事を確認して、思い切って走ってくる。
ヒノアラシもパチリスも長い紐を持っていた。2匹とも私を助けようと探してきてくれたんだ。
そしてポッチャマたちも含めて、私に飛びついて無事の喜びを全身で表した。
そこで私は改めて助かったことをかみしめた。私は嬉しくなった
「みんな…みんな…わたし…わたし…」
気がつくと私は涙を流していた。
みんなが必死に頑張ってくれたおかげで今わたしはこうして喜びを全身で味わえる。
あのとき、私が希望を捨てようとした時、みんなが応援してくれた。
誓いの言葉を思い出させてくれた。
「ありがとう…本当にありがとう…こんな仲間と一緒ならこれから先、どんな困難でも乗り越えられそう。夢も叶えられる」
みんなの顔に笑みが浮かんだ。
私を信じ、支えてくれる仲間、応援してくれる仲間、励ましてくれる仲間。
みんなの温かさと優しさに私は涙が止まらなかった。

 

マメの治療をした後、私たちは出発した。今私の側には、ポケモたち全員がボールから出ている。
道幅が広くなったのもそうだけど、山を降りるまではみんなと一緒に降りたい気持ちになった。
そしてしばらく歩いていると、山の下り道が見えてきた。そしてその向こうには街も。
私はポケモンたちに向き直った。
「みんな、今日の出来事私は絶対忘れない。みんなが頑張ってくれたこと。そして私が頑張ったこと。
あの時は大変だったけど、この経験コンテストに活かせると思う。
トップコーディネーターへの道は険しいのはわかってる。転んだり、挫けたり、立ち止まったりするかもしれない。
けど、みんながついてきてくれるから、仲間がいるから、私はまた何度でも立ち上がれる。頑張れる」
私は手を差し出した。
「みんな、改めてこれからもよろしく」
マンムーのキバとみんなの手が私の手に重なった。
そして「もちろんだよ」って答えるように元気よく返事をした。
こんな仲間とめぐり合えて、同じ夢に向かって走れる幸せを改めて感じた。

 

いっぱい学んでまた1歩強くなった私。次の街ではどんな出会いがあるかな?
そして次のコンテストもポケモと共に楽しみたい。そして輝きたい。そのためにも練習頑張らなくちゃね。
大きな決意を新たにしてそして私は山を降りた。

 

 

 

 FIN 

 

 


スモッド様のお誕生日記念にイラストを描かせて頂いたのですが、
なんと、そのお礼にとヒカリとヒカリの手持ちポケ達の素敵な小説を頂いてしまいました!
あんなヘボお祝いイラストなんかに御礼だなんて何とも恐れ多い・・・!!!
本当に本当にありがとうございます(*´▽`*)

ヒカリが自分で見つけ、自分で考えた誓いの言葉。
心にじんわり沁み渡る、本当に素晴らしい言葉だと思います。
普段私もつい忘れがちになっちゃう事なので、ヒカリを見習って心に刻んでおきたいと思います!

そして、その誓いをポッチャマのバブル光線で思い出すあのシーン!
メールの返信にも書かせて頂いたのですが、何度読んでも涙が出てきます。
ヒカリとポケモン達との絆。
そして、新たな成長。
ヒカリはきっと、これからもこうして成長し続けていくんでしょうね。

サトシやタケシと別れ、一人旅に出て、その途中でまた立ち止まる事もあるかもしれない。
でも、 どんな時もこの誓いのを忘れず前向きに歩き続けて欲しいものです!

では、スモッド様、素敵な小説を本当にありがとうございました!

 

 

ばっく