熱と快感 

 

 

 

「俺を殴れ」
 部屋に入ったと同時に翼が言った。
 唐突な言葉に柾輝が目を丸くしていると、翼は俯いて唇を一文字に結んだ。
「…何、自棄になってんの」
 溜息と共に柾輝は小さく呟いて、翼の頭を胸に引き寄せる。
 どうせ、俺のせいでとか一人で思い詰めているのだろう。
「そんなに悔しい?」
 胸に強い衝撃がきて、柾輝は小さく咽た。翼が力いっぱいそこを打ったのだ。
「ふざけんな…ふざけんな…」
 呟く翼の拳が震えている。
 今翼の胸中は屈辱と悔しさ、整理しきれない熱に犯されているんだろう。
 溢れる情熱を持て余し、ぶつける先を探して、今俺がここに居る。
 柾輝は迫り上がって来る不快感に奥歯を噛み締めた。
 お前こそふざけんな、翼。
 そう思ったが口には出さず、翼を抱いた腕に少しだけ力を込めた。

 翼はたぶん、今の戦い方を身に付けてから初めて敗北を帰した。
 先日の桜上水との試合以来、翼は桜上水を意識し始めた。恐らく中心選手である9番、10番、そして11番。
 けれど11番への意識は、9,10番への意識とはまた少し違うようだった。
 9,10番…風祭と水野は後々に東京選抜で同じチームとしてプレイする事になったこともあるだろう。身内を慈しみ育むような、俺たちに対するのと同じような目で見るようになった。けれど11番は…。
「今度こそ絶対に負けない」
 いつもそう言って真っ直ぐに見据えていた。
 翼が11番を意識して言葉を紡ぐ時、視線を強める時、体の底から溢れる情熱を抑えることも無く迸らせる時。
 柾輝は視線を逸らしたくなった。唇を、血が出るほど噛み締めて言葉を飲み込んだ。
 翼は、11番を自分に向かって来る者として認めた。
 そして、認めた者を叩きのめす為に待ち構えている翼が一番美しい事を、柾輝は知っていた。一番、背筋に寒気にも似た震えが走る程に、美しいと。
 自分には、決して見せない翼の姿。一番ゾクリとする姿は、あいつのモノなのだ。
 ざわりと熱が胸を焼く。酷く不快な熱だった。

「マサキ、関西選抜見たか?」
 コンクリート階段にしゃがみ込んで柾輝が靴紐を直していると、後ろから覆いかぶさるように翼が軽く首を絞めた。
「見てねぇ。何があんの」
 苦しい、と苦笑して腕を外させる。翼は軽く笑うと柾輝の隣に座り込んだ。
 合宿と称して全国から福島に、選抜が召集された。これから共に練習し、最後にはトーナメントで試合がある。関西選抜と当たる事もあるだろう。
「聞いて驚くなよ、直樹が居た」
「…へぇ」
「んだよ。もっと驚けよ」
「驚くなっつったの翼だろ。これでも十分驚いてる」
 つまらなそうに翼が脚を伸ばし、その先で靴を半分脱いでプラプラとさせた。
「なーんかコソコソしてるとは思ってたけど…関西まで通ってたとはね」
「頑張ったんだろ。…本気でやりたくなったって言ってたからな」
 キュ。と靴紐を縛り上げ、柾輝は立ち上がる。
 昔はただ漠然と「サッカーがしてぇなぁ」とぼやいていた。けれど、関西と東京を往復してまで高いレベルでサッカーをしようなんていう情熱、彼には無かった。「張り合うヤツがおらんようになって、情熱がのうなってしもうたんやな」と何処か寂しそうに呟いたのを覚えている。張り合う相手が帰って来て、息を吹き返したのだろう。去年の夏、桜上水の試合を初めて見た時、興奮気味に「見つけた」と奥歯を噛み締めていた姿を思い出した。
 ぽんと翼のスパイクが弧を描いて階段下へ跳ぶ。
 柾輝は一つ息を吐きながらそれを拾いに降り、翼の前にしゃがみ込んだ。
 小さな足を黒いスパイクに収め、丁寧に紐を結ぶ。翼はそれを当たり前のように受け入れながら、「マサキ」ともう一度呼んだ。
「関西に、あいつが居た」
 ピタ、と柾輝の動きが止まる。翼の語調に力が篭ったのが分かった。
 ゆっくりを顔を上げると、息を呑むほど強い光を湛えた瞳が待ち構えていた。
「あいつ?」
「…分かってるだろ。桜上水の11番。またあいつとやれるぜ、俺たち」
 俺たち、ね。
 柾輝は口許に笑みを浮かべた。
 緩慢な動作で翼の靴紐をキュッと縛り上げると、ゆらりと立ち上がる。
「おい、聞いてんのか?」
「聞いてるよ」
 背を向けた柾輝に慌てて翼は立ち上がった。咄嗟に柾輝の腕を引き、訝しげな顔をしてこちらを見る。段差で丁度視線が同じ位置にあった。
「……怒ってんのか?」
「いいや」
 飄々としている柾輝の表情からは感情が読めない。笑っているようにも見える。けれど、翼は肌にピリピリしたものを感じていた。何か不味い事でも言っただろうか。
 柾輝は軽く腕を引いて翼の手を外すと、もう一度背を向け歩き出した。咎めるような「マサキ」という声に、肩を竦める。振り返らぬまま「リョーカイ」と軽く手を振った。
 やれば良いんだろ。やれば。
 「俺ら」と言えるようになっただけ、進歩したと思ってやるよ。あんたの世界はあいつと出会うまで、あんた一人きりだった。
 あいつを叩きのめす為に俺の力が必要なら、幾らだって協力してやるさ。
 すれば良いんだろ。
「…………」
 ガンッと力一杯ゴミ箱を蹴る。派手な音を立てて倒れた。自販機横の缶専用のゴミ箱。蓋が外れて中身が何本も転がり出た。
 眉を顰めて舌打ちをする。
 ふいっと顔を背け一歩踏み出した所で、突然降って沸いた声に柾輝は脚を止めた。
「あーらら、クロカワくん。イケナイ子やね」
 茶化した口調と、癖のあるイントネーション。
 声がした方を見下ろすと、「よ」と手を上げて缶ジュース片手に自販機横でしゃがみ込む人影。
「……何で名前知ってんの」
 我ながら、この状況で何とマヌケな質問だと思わないでもない。
「手伝ったげるから、ちゃんとなおしましょうね」
 質問には答えず、小さい子供に言って聞かせるような口調で笑う。
 柾輝は毒気を抜かれた思いで一つ息を吐くと、自ら蹴り倒したゴミ箱を起こし、屈み込んで散らばった缶を拾い集めた。
「こっちには東京選抜の一部DF情報はダダ洩れや」
 唐突な言葉に柾輝は目をニ、三度瞬かせ、それが先ほどの質問の答えだと理解すると、くっと喉で笑った。ズレたテンポが可笑しかった。
「こんな所で何してんの」
「休憩時間に水分補給」
 本当に手伝ってくれながら、シゲは自分が飲んでいた缶もついでとばかりにゴミ箱に放り込む。カランと軽い音を立てた。
「何やイライラしとんな。お肌に悪いで」
「心配してもらわなくても、スベスベだよ」
 軽口で返す柾輝に、シゲは面白そうに「へぇ」と笑った。柾輝の頬に手を伸ばし軽く抓る。
「お、ホンマにスベスベ」
 プニプニと摘んでくる手を鬱陶しそうに払いのけ、柾輝は大きな溜息を吐く。
 完全に気が逸れた。
 ゴミを拾い終わった柾輝は立ち上がり、軽く服を払った。
「ま、笑ってられんのも今のうちだぜ、11番。うちのセンターバックが燃えてるからな」
「姫さん?」
「あんたを今度こそ叩きのめすってさ」
 見上げてくるシゲにニッと笑ってやると、シゲも笑った。
「へぇ。熱烈愛されとるわけね、俺」
 その言葉に柾輝は目を細め、口許に酷薄な笑みを引く。
「……余裕だね」
「まぁ、負ける気はせんな」
「……」
 あの酷く不快な熱がざわりと胸を焼くのを感じた。スッと潮が引くように笑みを消す。
「…なぁ。どんな感じだ?」
「何が?」
 シゲは軽快に立ち上がり、「ん」と背伸びをした。
 柾輝は自分とさほど変わらない位置にある目を見る。
 強い目をしている。
 翼と同じ、天才と呼ばれる者の瞳。
 ゾクリとする。
「翼が天才なのは認めるだろ?」
「ま、並みの実力じゃあらへんな」
「その天才に意識されて、全力で挑まれるのは、どんな感じだ?」
 シゲの瞳がほんの少し瞠られる。それも一瞬で、次には面白さを含んだ笑みの形に細められた。
「…へぇ、意外。ナオキの話では冷めた性格やと思ってたけど」
「答えろよ」
 ジッと。
 揶揄には何の反応も示さず見詰めてくる黒い瞳に、シゲは小さく苦笑する。髪を掻き揚げ、真摯に注がれる視線を真っ直ぐ見返した。
「俺な、姫さんのことはあんま眼中にないねん」
 柾輝の視線が揺らぐ。信じられない、とばかりに軽く瞠目された。
「姫さんは完成されすぎや。俺はそういうのより、まだ未発達な天才の方がゾクゾクする。奥から何が飛び出してくるか、いつ並ばれるか、いつ追い越されるか」
 ゾクゾクするで。
「じわじわ近づいてくるんや。俺には姫さんより、怖い相手がおる。やからな、」
 一旦言葉を切って、シゲは口許に笑みを引いた。
「“椎名翼”に対峙されての想いってやつ。あんたの期待してる答えは俺からは出ぇへんよ」
「―――…」
「知りたければ、自分で立てや。ゾクゾクする、自分だけのプレイヤーの前に」
 柾輝は唇を噛み締めた。体の横で握る拳が震えている。視線を合わせていられずに、下を向いた。
「……あんたの不幸は、あんただけのプレイヤーがあんたにベッタリ頼り切ってるところやな」
「…っ」
 痛いところを突かれた。
 咄嗟に顔を上げると、シゲはすでに背を向け歩き出していた。
 血の味が広がる。
 柾輝は多少乱暴に口許を拭うと、その場に背を向け、一歩一歩大地を踏みしめた。
 世の中、なんて理不尽なんだ。
 どうして俺の前に翼を正面に立たせてくれない。翼が立つ相手は他の誰かを見ているのに。俺が見ているのはいつも、翼の後姿だ。
 こちらを向け。正面から俺を見ろ。挑んで来い。泣きそうな顔なんて見たくない。
 思うだけじゃ駄目だ。俺が自分の意思で翼の前に立たないと、駄目だ。
 俺は…天才なんて生き物ではないから。
 柾輝はヒリヒリと痛む唇を、もう一度乱暴に拭った。


 今回の合宿最終イベントの選抜別トーナメント、東京対東北。
 記憶のある中で恐らく初めて、翼にキツイ言葉を吐いた。
 本当は殴ってやろうかと思った。
 体格差に翻弄されて、いつもの戦い方を忘れて頭に血を上らせていた翼を。風祭に八つ当たりし、仕舞いには俺から目を逸らす。
 ふざけんなよ、翼。
 逃げるな。俺から目を逸らさなければならないような事をするな。そんなあんた、見たくねぇ。
 だから言った。
「ここで立ち上がらなきゃ男じゃねぇ」
 これは、賭けだ。
 優しく抱き込んでやる事は簡単だ。いつだってそうやって翼を支えてきた。
 けれど、本当は。
 そんな翼、見たくなかった。俺の腕の中で安心しきっている翼なんて、見たくない。
 立ってくれ、頼むから。俺の腕なんて必要としないでくれ。一人で立て。
 ハーフタイム終了のホイッスルが鳴る。
 さぁ、応えてみろ。“椎名翼”として、応えて見せろ。

「マサキ」
 水道から直接水を飲んでいると、後ろから声がした。
 振り返らなくても分かる。翼だ。
 ぐいと水に濡れた口許を拭い、柾輝は静かに振り返った。
「何」
 促すと翼は何度か言い淀み、「悪い」と言った。
 柾輝が何も言わずにジッと見返していると、翼は矢次に続けた。
「さっきの試合、迷惑かけた。だから」
「謝る相手、違ってね?」
 柾輝は肩を竦めた。
 さっきのことで、言葉なんて聞きたくなかった。翼は一人で立った。それだけで十分だった。
「……怒ってんのか?」
「何で」
 翼は窺うようにこちらを見る。それすら不快で柾輝は目を逸らした。
「マサキ、最近おかしいぞ」
「……」
 翼の後ろを、何事だろうという顔つきで、知らない少年が通りすがる。
「こっち」
 柾輝は一言だけ言い置いて歩き出す。翼は一瞬眉を顰め、それでも黙って付いて来た。
 施設の裏は日陰になっていて、少し寒い。その壁に身を凭れ掛け、柾輝は翼を促した。
「で?何が言いたいわけ?」
 翼は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「…お前、最近真っ直ぐ俺の顔見たことあるか?」
「…………」
 スッと柾輝の目が細められ、口許に淡い笑みが乗る。
 さすが翼だと思った。
 ベッタリと寄りかかるくせに、見るところは見ている。
「翼」
「…」
 手を伸ばして頬を撫でてみる。
 人に触れられるのが大嫌いなくせに、俺が触ると抗わない。そうやって、人の優越感を満たす術を心得ている。自分を庇護する者を繋ぎ止める術を。
「…俺のこと、どう思ってる?」
 翼が訝しげな顔をした。真意を量りかねて返答できないで居る。そういう顔だった。
「翼、俺とサッカーやってて楽しい?」
 ジッと。
 自分の視界より頭一つ分低い翼の目を見る。
 キレーな目。舐めたら甘そうな、丸い飴玉。
「…楽しいよ。決まってるだろ」
 いい加減離せ、と翼が柾輝の手を払った。柾輝はジッと掌を見て、クスリと笑う。
「何で翼、飛葉に来た?何で俺たち、仲間なんだろうな」
「マサキ?」
「まぁ、翼が来たから今俺がここにいるんだし。感謝してるよ。これはホント。でも俺、翼と同じチームに居るのすっげーヤ」
 ドスッ
 腹に重い衝撃が来て、それ以上言葉が紡げなくなる。
 柾輝は腹を抱えて声も無く座り込んだ。容赦なく鳩尾に拳を叩き込まれたのだ。
「って…」
「何抜かしてんだバカマサキ!俺が嫌だと?ふざけんなっどの口が言ってんだ!この口か!?え?」
 グリグリと柾輝の唇を摘み上げて目を据わらせている。
「ごめんなさいは?」
「ふぉふぇんふぁふぁいっ」
「よろしい」
 パッと翼の手が離れた。
 一つ小さな息を吐いて柾輝の前に座り込む。
「で。今度は何思い詰めてんのマサキちゃんは」
 時々柾輝は変に思い詰めるからな。
 ニッと笑って翼は柾輝の頭をポフポフと二度撫でた。
「…つばさ」
「はぁい?」
 しゃがみ込んだ膝に肘を立て、右手に頬を乗せて翼が笑う。幼い子供をからかうような表情。
 柾輝は何だか無性に泣きたくなった。
「翼は、サッカーしてて何が一番ゾクゾクする?」
「ゾクゾク?」
 翼は小さく首を傾げた。
「鳥肌が立つほどの、快感」
 柾輝の言葉に、翼が何度か瞬きをする。少しだけ考えるように空を見上げ、柾輝の目をジッと見るとニコリと笑った。
「マサキは、何が一番気持ちイイ?」
「…質問を質問で返すなよ」
「マサキの十八番だな」
 くす、と翼は可笑しそうに笑う。
 柾輝は溜息を吐くと、少し考えた。言葉にするのに、少し緊張する。乾いたように感じる唇を軽く舐め濡らし、こくりと小さく息を呑んだ。
「俺は…認めた相手と全力で対峙するとゾクゾクする」
 そ。と翼は呟く。「俺はね」と続けて。
「俺はね、DFだ。向かってくる敵を徹底的に潰す。それが快感。体格のイイヤツでも、俺のプレイで潰れて膝を付く。最高だろ。ゾクゾクするね。相手が手強ければ手強いほど気持ちイイ」
「…俺の事、潰したいと思ったことある?」
「潰して欲しいの?イイよ。誰が相手だろうと、手加減なんかしねぇから。柾輝が膝つくの、結構イイかも。可愛くてゾクゾクする」
 ふふ、と翼は笑う。
「――…はっ」
 柾輝は肩を震わせた。
 可笑しかった。
「翼って…超サディスト」
「魅力的だろ?」
「ああ、俺好み」
「マサキちゃんマゾだもんな。可愛がってやるよ」
 ニッと笑う翼に「バーカ」と返して柾輝は笑う。
「あのな、マサキ」
 翼の笑みがスッと引く。
 ジッと見詰めてくるその強い視線に、息が詰まった。
「お前が俺のこと嫌いでもイイよ。でも、俺はお前、好きだよ」
「……」
「マサキの事、知りたいと思った。今もな、マサキが何を考えてそんな事言うのか知りたかったから聞いた。好きだからだよ」
 柾輝は翼の視線から目を逸らした。胸元の服を握り締めて唇を噛む。胸がざわりと締め付けられた。あの不快な熱と、絞られるような熱が複雑に絡み合って胸を焼く。
 翼が興味を持っているのは、一個人としての“黒川柾輝”。
 ただ、それだけ。
 ズキリと唇が痛んだ。
「マサキ?」
 翼にとっての俺は…。
 一緒に世界に行こうと言った。
 強い瞳をして。
 一緒に、と。
「……」
 柾輝は笑った。泣きたかった。
 俺は贅沢なんだろうか。
 翼が俺を好きだと言った。それだけでは足りない俺は、贅沢だろうか。
 俺は翼に、プレイヤーとして認めて欲しい。
 あとどれだけ上手くなれば認めてもらえるだろうか。認めてもらえるだけの力量が、俺にあるだろうか。
 怖くて泣きたくなる。
 まだやれる。まだ上手くなる。けれど翼は更に上へ行く。追いつけるのか。追い越せるのか。俺は、翼が向き合うに相応しい選手になれるだろうか。
 怖くて泣きたくなる。
 柾輝は硬く目を閉じ、振り切るように首を降る。 

 “知りたければ、自分で立てや。ゾクゾクする、自分だけのプレイヤーの前に”

「……――翼」
「なに?」
 翼の肩をガシッと掴む。
 驚く翼に構わず、グッと力を入れて、自分が立つのと同時に立ち上がらせた。
「ぅお、すっごい力」
「翼」
「何だよ」
 柾輝は真っ直ぐ翼を見た。飴玉みたいな瞳を見つめて。
「俺が、あんたを潰す」
 翼の大きな目がパチパチと瞬く。それからふっと細められた。唇が嬉しそうにキューッと上がって、目がキラキラと輝く。
「上等。最高だねマサキ。お前にやれるか?」
「……―――」
 ああ、笑った。
「やる。だから、俺以外に潰されんな」
 柾輝の真正面からの視線。翼は真っ直ぐ、受け止めた。
「勿論。誰にも潰されねぇよ」
 お前にもな。
 そう言って翼は不敵に笑った。あの、一番美しい笑顔で笑った。
 柾輝の背中に震えが走る。
 そうしてまた、泣きたくなった。

 あの絞られるような熱が、胸を焼いたから。

 

 

 

 FIN 

 

 


HEAVEN×KISSのせーか様よりいただきました!
フリー小説との事だったので、ここぞとばかりに強だt・・・ゴホン、いただいてきました。

一番近くにいるからこそ辛い事もあることを、改めて認識しました。
人間は欲張りな生き物だから、傍にいるだけじゃ満足できないんですよね。

それにしても柾輝可愛いなぁ!
翼にちゃんと一人のプレイヤーとして意識してほしくて悶々してる姿にキュンキュンしました!
私もいつか、こんな素晴らしいお話が書けるよう頑張りたいです。

せーか様、素敵な小説をありがとうございました!

 

 

ばっく