冷たい記憶 

 

 

 

「またこんな所で寄り道か?お団子頭」
「あー!またあんた!」

ゲームセンター、クラウンの一角。
二人の男女の声が店内に響く。

「遊んでばかりいると余計頭悪くなるんじゃないのか?」
「余計なお世話ですよーっだ!」

衛がいつもと同様にうさぎをからかい、いつもと同様にうさぎが反撃する。
その横で友人のなるがうさぎをなだめ、カウンターの奥では元基が笑っている。

 

いつもと何一つ変わらない風景。

 

挨拶代わりの言い争いが終わったら少しゲームをして。

ゲームに飽きたらまたお喋りして。

「もうお小遣いない」なんて言いながらも、まだ帰らなかったり。

 

 

 

しかし、うさぎは。

うさぎだけは。

 

なるがゲームに熱中している横で、衛を、じっと見つめていた。

 

 

 

(まただ・・・。また、この感じ・・・)

うさぎの心には何かわだかまりが残っているような、不思議な気持ちが溢れていた。

しかし、うさぎ自身、この感情が何なのか理解できずにいる。

 

 

 

衛にだけではない。

 

5組の天才少女。

転校生の怪力少女。

火川神社にいた巫女さん。

芝中学の制服を着た赤いリボンの女の子。

 

今のうさぎとは関わりのない人々。
なのに何故、彼女達がそこに『いる』ことがこれほどまでに嬉しいのか。

そして、何故こんなにも泣きそうになるのか。

 

うさぎは、行き場のないこの感情を持て余し、戸惑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

いつも浮かんでくる冷たい風景。

氷の中で佇む自分の姿。


「死なないで」

「死なないで」

「お願い」

「いなくならないで」

 

「    」

 

 

 

 

私はどうして泣いているの?

 

 

 

 

 

 

 

「お団子頭・・・?」

急に、衛の声が頭の上から振ってくる。
驚いて顔を上げると、怪訝そうな顔の衛があった。

「顔色悪いぞ。どうした?」

いつもの嫌味な言い方ではなく、優しく問いかける。
先ほどまでゲームに熱中していたなるも、心配そうに自分を見ている。

 

「あ・・・ううん!何でもないの!」

無理やり笑顔を作り、大袈裟に両手を振ってみせる。

うさぎ自身何なのか分からないのだから、説明などできるはずもない。
何でもないとしか、言う言葉が見つからなかった。

 

 

「・・・無理、するなよ?」

ふわりと、衛の手がうさぎの頭に触れる。

 

 

 

暖かいその手は。

 

確かに、生きていて。

 

 

 

「・・・ありがとう・・・」

 

 

 

涙が、溢れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

無くした記憶の片隅で、今だ泣き叫ぶ自分。

 

今、彼が生きている事は。

今、彼女たちが生きている事は。

 

こんなにも嬉しいはずなのに。

 

 

 

思い出すのは、冷たいままの風景。

一人佇む自分の姿。

 

 

冷たい氷の中。

私の大切な人たちはまだ、眠ったまま。

 

 

 

 

 

ねぇ。

 

どうすれば目覚めてくれますか?

 

 

 

 FIN 

 

 


(一応)2007年 うさぎ誕生日祝い小説。
た、たまたま昔書いたやつを引き出しの奥底から見つけたんじゃないからねっ!

(2007・6・28)

 

 

ばっく