俺にとっておだんごは、まるで開けてはいけないパンドラの箱のようだと思う。

 

 

おだんごにはすでに決まった相手がいて、
その人と一緒に地球を守っていかなければならない。

そこへ俺が無理やり介入すれば、きっと大きな影響が出るだろう。

 

パンドラの開けた箱から、ありとあらゆる災厄が飛び出したように。

 

それでも、おだんごに近づきたいと・・・おだんごと一緒にいたいと感じるのは、
パンドラのように俺にも好奇心があるからだろうか・・・?

 

 

 

 パンドラの箱 

 

 

 

日向ぼっこに最適な昼下がり。

十番高校の中庭で、本当に日向ぼっこしている星野光と月野うさぎの姿があった。

 

星野とうさぎと言うと、どうしても星野がうさぎを強引に誘ったように思うが、そうではない。

最近、十番高校のセーラー戦士4人+ライツ3人でランチタイムというのが習慣になっていたのだ。

 

 

しかし、誰かの陰謀か、はたまた偶然か。
今日は各自それぞれに用事があるとかで、星野とうさぎの2人が残ったのである。

さらに付け足すと、ちょうど今しがた二人のお弁当箱が空になったようだ。

 

 

 

「はぁ〜、お腹いっぱい!天気もいいし、満足満足♪」

可愛い兎模様のお弁当箱を片付けながら、うさぎが満足そうに空を仰ぐ。
つられて星野も空を見ようとして、ふとあるモノが目に入り、思わず噴出す。

「満足なのはいいけど、ほっぺたにご飯粒残ってるぞ」

「えっ!嘘!?どこどこ??」

 

そう言いつつも口より先にうさぎの体は反応したようで、両手はすでに頬を触っている。
しかし、こういうときに限ってうまい具合に見つからず、かなり悪戦苦闘している様子が伺える。

 

「ほら、ここだって」

 

ごく自然な動きで、星野はご飯粒をうさぎの頬から自分の口へと運んだ。
途端、うさぎの頬が赤くなるのが目の端に映る。

 

 

「・・・ありがと・・・」

赤くなった顔を見られないよう、俯き加減にうさぎが呟く。

 

ただ単に、うさぎはこういう事をされるのに慣れていないだけだと分かってはいるものの、
その何気ない行動すら脈アリ?なんて考えてしまう自分は末期なんだろう。

少し赤らんだ横顔を見つめていると、不意に切なくなる。

 

 

 

 

 

これ以上近づいてはいけないのかもしれない。

でも、一緒に居たいと想うこの気持ちをどうすればいいのか分からない。

 

 

 

 

 

「おだんごはさ、パンドラの箱って知ってるか?」

「パンドラの箱・・・?何ソレ?美味しいの?」

 

突拍子もない星野からの質問に、真顔でボケるうさぎ。
さっきまでのシリアスムードから一転、場は一気に漫才ムードになってしまった。

 

 

しかし、普段のうさぎ知っている人ならばこれは予想済みの出来事。
それは星野もまた然りで、とりあえず、そのまま話を進めていく。

 

 

「ギリシャ神話だよ。

 『好奇心を与えられたパンドラが開けてはならないという箱を開けてしまった。
  すると、箱の中からありとあらゆる災いが飛び出した。
  慌てて蓋をすると、中には【前兆】つまり未来を知る力だけが残った。』

 っていう話。聞いたことあるだろ?」

「う〜ん・・・確か亜美ちゃんがそんな話してたような気がするけど・・・。
 でも、それが何?」

うさぎが不思議そうな顔で星野を覗き込む。

「いや、何となく思い出したんだけどさ。おだんごはこの話、どう思う?
 好奇心さえなければ、パンドラは箱開けずに平和に終わったんじゃねぇのかな?」

 

 

 

遠くを見つめながら、開けてはならない箱を開けてしまったパンドラに自分を重ねる。

おだんごへの感情さえなければ何事もなく平和に終わるんだろうと思うと、
どうしようもなく自分が情けなく思えてくる。

 

 

 

 

 

「よく分かんないけど、私は好奇心って悪いものじゃないと思うよ」

 

 

しばらく唸っていたうさぎが、不意に呟く。
星野は星野で、いろいろと考え込んでる途中だったので、少し驚いた顔でうさぎを見た。

そんな星野に、うさぎがもう一度力強く言う。

 

 

 

「好奇心はきっと悪いものじゃない。ほら、好奇心でやった事がいい結果に繋がる事あるでしょ?」

 

 

 

星野を真っ直ぐ見据えながら、うさぎが一言一言ゆっくりと紡ぎだす。

 

 

 

「それにね、残ったものは【前兆】じゃなくて【希望】だったとも言われてるんだよ。
 未来が分かってるのって確かに楽だけど、未来ってどうなるか分からないからこそ希望があるんだし」

 

 

その言葉の一つ一つが、じんわりと星野の心に染み渡る。

 

 

「箱を開けなければ確かに平和かもしれないけど、それだと希望も見えなかったんじゃないかな?
 そう考えると、パンドラの好奇心も捨てたものじゃないと思うよ。
 ・・・な〜んて、ほとんど亜美ちゃんの受け売りなんだけどね」

 

 

アハハーとうさぎが照れ笑いする。

しかし、これこそ目から鱗とでもいうのだろうか。
受け売りだろうが何だろうが、うさぎの言葉で、星野は自分の中の何かが変わったように感じた。

 

 

 

 

「希望・・・か」

そう言って、星野が少し笑みをこぼす。

 

 

 

 

 

 

 

 

神様。

 

どうか、俺に勇気という名の好奇心を下さい。

 

 

 

 

 

 

 

「おだんご」

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

どんな災いが飛び出すか分からないけど。

 

今は、その奥底に少しでも希望が残っている事を信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺、お前の事が―――――」

 

 

 

 FIN 

 

 


うさぎちゃんの言ってる事が矛盾してるんだけど、ここでまさかの放置プレイ(笑)

(2005・07・04)

 

 

ばっく