Declaration on the birthday 

 

 

 

「続いての曲は、スリーライツで『流れ星へ』です。
 スリーライツと言えば、一年前に・・・・・」

「「「「「―――――あ・・・」」」」」

 

 

 

つけっ放しのテレビから流れてきた、聞き慣れていたはずの名前に思わず声が漏れる。

それは、一番テレビに集中していた美奈子だけではなかったようで、
火川神社、とりわけレイの部屋に集まっていた5人の声が一斉にハモった。

 

 

「スリーライツか・・・。懐かしいわね」

「あぁ。3人とも元気でやってるかなぁ?」

1年前を思い出すように、亜美とまことが顔を見合わせる。

 

 

 

 

スリーライツたちがキンモク星へ帰って早1年。
その間、敵が一体もでなかったわけではないけれど、
現在はギャラクシアとの戦いが嘘だったかのように平和になった。

セーラー戦士たちにしろ、地場衛にしろ、それぞれの夢に向かって歩き出している。

 

 

ただ一人、愛野美奈子を除いて・・・。

 

 

 

とはいえ、美奈子だってただ何もしていないわけではない。
アイドルになるために普段から一生懸命努力しているし、オーディションにも参加している。

ただ、時々立ち止まってしまう事があるのだ。

 

 

確かに世界は平和になった。
これからは好きなだけ自分の夢を追いかけられるのだが・・・。

時々、ほんの少し何かが足りない、と感じてしまうのである。

 

 

 

「スリーライツといえば、今日って夜天くんの誕生日じゃなかった?」

レイがポンと両手を合わせる。
その言葉にいち早く反応し、美奈子が勢いよく振り向いた。

「・・・どうしたの?美奈子ちゃん」

その勢いに押され、少し引き気味にレイが問う。

 

 

「あ・・・ううん。何でもないの!
 それよりさぁ、このCMに出てるこの人、カッコいいと思わない?」

「ホントだ。すっごいカッコいい〜♪」

「でっしょ〜!」

美奈子の意見にうさぎが賛同し、思いっきり話が脱線する。
二人の双子(のような)パワーに圧倒され、スリーライツの話はそれっきりになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、またね〜」

「バイバーイ」

午後6時を回った頃、5人は手を振りながらそれぞれの帰路についた。
暦の上では春になったとはいえ、2月はまだ日が暮れるのが早い。
辺りはすっかり暗闇に包まれている。

 

 

用があるわけでもなく、別に急ぐ事もないのだが、夜の暗闇が美奈子を急かす。

暗闇にいると独りぼっちになってしまったようで。
皆においていかれたような気がして。

普段よりも少し早足で、いつもの帰り道を歩いていた。

 

 

 

途中、歩道橋の上から見える景色に、ふと足を止める。
街の中に溢れるネオンの一つが目に留まった。

 

 

 

『2月8日』

 

 

 

数時間前のレイのセリフが、美奈子の脳裏をよぎる。

 

 

 

『スリーライツといえば、今日って夜天くんの誕生日じゃなかった?』

 

 

 

忘れていたわけじゃない。
むしろ、忘れようとしても忘れられなかったくらいはっきりと覚えている。

 

 

 

今日は夜天の・・・

美奈子の一番愛しい人の誕生日なのだから。

 

 

 

と言っても、別に美奈子と夜天は付き合っているわけではない。

美奈子自身、ライツが地球にいる頃から夜天の事が好きだとは思っていた。
しかし、いつものあの積極性はどこへやら、結局最後まで告白できなかったのだ。

『後悔先に立たず』とはまさにこの事である。

 

 

 

「おめでとうくらい言いたかったなぁ」

虚ろな目で夜空を見上げる。

 

 

「夜天くんのバーカ」

強がるように、八つ当たり気味のセリフを呟く。
返事なんて期待してなかったけど、答えがないのはやはり寂しいものである。

美奈子は、はぁ、と大きく息を吐き、帰ろうと体の向きを変えた。

 

その瞬間。

 

「誰がバカだって?」

 

 

 

全く期待していなかった返事が、美奈子の背後から聞こえてきた。

そんなはずないと思いながらも、美奈子がゆっくり振り向く。

 

 

「僕さぁ、お前にだけはバカって言われたくなかったんだけど」

 

 

男にしては少し高めのハスキーボイス。

少し意地悪なその話し方。

綺麗な銀色の髪。

口の端を吊り上げて笑う整った顔。

 

 

 

間違えるわけがない。

ずっと、ずっと会いたかったんだから―――――。

 

 

 

「夜天・・・くん?」

その存在を確かめるように、一言一言を大切に口にする。

 

「何当たり前の事聞いてるのさ。僕以外誰に見えるわけ?」

「あ、ごめん。・・・じゃなくて!何でここにいるの!?」

「僕がここにいちゃ何か悪いの?」

「いや、そういうわけじゃないけど・・・」

 

美奈子がもごもごと口ごもる。
少し険しい表情でそれを見ていた夜天が、フッと笑った。

 

 

「キンモク星が無事復興ことを報告しにきたんだよ。
 で、たまたまお前がここにいるの見えたから、わざわざ声かけてやったの。
 ・・・・・って、聞いてる?」

コクコクと、美奈子が二回顎を引く。

 

「何泣きそうな顔してるのさ」

「・・・だって!!会えて嬉しかったんだもん!」

顔を上げると、我慢していたはずの涙がポロポロと溢れてきた。
混乱してるはずなのに、こんなときでも理性は働いていたようで、
(周りに人が少なくてよかった)なんてのんびり考えてしまう。

 

 

夜天が美奈子の腕をぐいっと引っ張ると、
美奈子はいとも簡単に夜天の腕の中にすっぽり腕に収まった。

いきなりの事に頭がついていかず、美奈子が目をパチクリとする。

 

 

 

 

「僕も会いたかった」

 

 

 

 

抱きしめる腕にさらに力がこもる。
さっき止まったはずの涙が、再び美奈子の頬をつたう。

ぽっかりと胸に空いた穴が、じんわりと塞がっていくのを感じた。

 

 

 

 

 

「夜天くん、誕生日おめでとう。
 ・・・・・大好き・・・・・」

 

 

 

 

 

 

あの時言えなかった言葉。

ずっと言いたかった想い。

 

 

 

大切なこの日に伝えます。

 

 

 

 

どうか、受け取ってください―――――。

 

 

 

 FIN 

 

 


2005年 夜天誕生日祝い小説。

(2005・2・19)

 

 

ばっく