愛情キャンディ
最近、僕はずっと悩んでいる。
プリンセスの事。
ギャラクシアの事。
やらなきゃいけない事はたくさんあるのに、
何にも出来ないでいる。
どうしようもないのは分かっているけど、
気持ちだけがあせる。
僕は一体、どうすればいいんだろう・・・。
「やてーんくーん!」
そんなシリアスムードを一気にぶち壊すかん高い声。
忘れてたけど、今学校にいるんだっけ。
声のした方を見ると愛野美奈子が大きく手を振りながらこっちに走ってくる。
やだなぁ・・・。僕、あいつ苦手なんだよね・・・。
すっごいミーハーだし。
何かと「デートしよう」とか誘ってくるし。
頭の中一年中花が咲いてるし(要は能天気ってこと)。
今だってどーせくだらない事に決まってる。
ここはずらずら構われる前に先手を打つ!
「やだよ」
「まだ何も言ってないのに・・・」
僕の目の前に着いた愛野が、ぷぅっと頬を膨らませる。
僕は大きくため息をはき、一気にまくしたてた。
「サインはした。握手もした。写真もこの間何枚も撮った。
スケジュールなら星野か大気にどうぞ」
「勝手に決め付けるなんてひっどーい!
私だってたまにはちゃんとした用事があるんだから!」
今までにないくらい真剣に訴えてくる愛野。
仕方がないので、用件を聞いてみる。
「はいはい。で、一体今度は何?」
愛野は満足そうに笑い、右手を僕に差し出す。
そして一言。
「アメあげる♪」
・・・神様、こいつを殴っていいですか?
いえ、殴るはひどいにしても、せめて無視くらいいいですよね?
僕がそんな事を考えているとはつゆ知らず、愛野が話を進める。
「夜天君、いちごみるく嫌いだった?
他にもオレンジとかいろいろあるけど、どれがいい?」
愛野に無視は通じないかもしれない・・・。
とりあえず、さっさと断って逃げてしまおう。
そう考えた僕は、一言「いらない」とだけ言い、その場を去ろうとした。
「えっ、いらないの?でも悩んでるときって甘い物が脳に良いのよ」
「・・・悩んでる?」
『悩んでる』という言葉がひっかかり、思わず聞き返す。
「うん。夜天君、最近ずっと悩んでたでしょう?
ほら!悩むと脳みそ使うから疲れるじゃない!
疲れてるときは甘い物を食べると良いって聞いたから」
正直、かなり驚いた。
だってあの能天気な愛野だよ?
誰にも気付かれないようにしてたつもりだったのに・・・。
たとえ誰かが気付いても、絶対こいつは気付かないって思ってた。
僕が何も答えられないでいると、愛野が再び口を開いた。
「何で悩んでるのか知らないけど、きっと大丈夫だよ。
だって夜天君、こんなに頑張ってるもん!」
『ダイジョウブダヨ』
それは、ずっと僕が求めていたセリフだった。
最近はいろんな事がありずぎて、
すっごく不安になってて、
それでも自分で自分に『大丈夫』って言い聞かせて、
何とか納得してたつもりだったけど、
本当は、ずっと誰かに『大丈夫』って言って欲しかったんだ―――――。
愛野の言葉がすごく嬉しくて、不覚にも少し涙ぐんでしまう。
バレないよう、少し下を向きながら、今度は僕から愛野に話しかける。
「大丈夫・・・なのかな?」
「うん!絶対大丈夫!
たとえ神様が見捨てても、夜天君には女神がついてるんだから!」
いつもの、あの能天気な笑顔で僕を励ます愛野。
今の今まで泣きそうだったのに、つられて僕まで笑顔になる。
「ありがとう。お前のおかげでちょっと楽になれたかも。
・・・ところで女神ってさぁ、ありえないと思うけど、お前の事?」
「何よぅ、それ!せっかく励ましてあげたのに!
でも、夜天君が元気になってくれてよかった。
元気になったお祝いとして、アメおまけしたげるね!」
愛野がちょっと照れくさそうに笑いながら、僕の両手にアメを乗せ始める。
一回「いらない」って言ったこと、絶対忘れてるよね、こいつ。
別にアメ嫌いじゃないからいいんだけどさ。
僕の両手が一杯になった頃、愛野が急に思い出したように叫んだ。
「あ!そーだ!疲れたときにはやっぱ気分転換が必要よね!
ってことで、気分転換に私とデートなんてどう?」
・・・結局最後に行き着くのはこれなんだね(呆)
でも・・・、まぁいっか。
愛野のおかげで楽になれたのは確かだし。
たまには気分転換もいいかもね。
「いいよ」
「へっ?」
まさかOKが出るとは思ってなかったらしく、愛野はかなり間抜けな顔をしている。
「しないの?デート」
「す、する!絶対する!!」
驚いたような、嬉しいような顔で返事をする愛野。
その様子を見て笑う僕。
きっともう大丈夫。
まだ全てが解決したわけじゃないけど。
これからも悩んで立ち止まるだろうけど。
でも、たとえ神様に見捨てられたとしても、
僕には、『女神』が付いてるんだから!
FIN
原案は妹。
美奈ちゃんはああ見えて結構鋭するどいと思います。
(2004・11・23)