柾輝誕生日2007
2007年11月23日午前7時4分。
ベッド脇に投げ出した携帯が着信を告げる。
「・・・はい」
「あ、マサキ?」
奥から聞こえた第一声に、眠っていた柾輝の脳が一気に覚醒した。
「翼?なんでこんな朝早く・・・」
「今日お前の誕生日だろ?祝ってやろうと思ってさ。翼様のびっくりサプライズ!」
イタズラっぽく笑う翼に、柾輝の口元も自然と緩む。
同時に、翼は昔からこういう事が好きだったのを思い出した。
柾輝の返答を待たずに翼が続ける。
「今から出れるか?」
「あぁ、大丈夫だけど・・・」
そこまで答えてから、ふいに柾輝の頭に疑問詞が浮かんだ。
『今から』とは一体どういう事だろう。
翼は今、遠く離れたスペインにいるはず。
なのに何故・・・。
「待っててやるから早くなー」
切る間際に聞こえた翼の「あー寒っ」というセリフからして、
柾輝の脳裏を過ぎった答えは十中八九間違いないのだろう。
ベッドから出ると素早く準備をして外へ飛び出す。
すると、案の定、そこには翼の姿があった。
「何でここにいんの?」
「お前が誕生日は僕と過ごしたいかと思って」
ニッコリと微笑む翼に、柾輝はガックリと項垂れる。
びっくりサプライズにも程があるだろ、なんて悪態をつきつつも、
自分の誕生日のためだけにわざわざスペインから帰ってきたのかと思うとやはり嬉しい。
「あっちはいいのか?」
「ちょうど休み貰えたからね。今夜の便ですぐ戻るけど、それまではお前に付き合ってやるよ」
言うが早いか、翼は早速柾輝の手をとって歩き出した。
◇
翼に連れられ二人がやってきたのは、飛葉中だった。
「うわ、懐かしー」
「全然変わってねぇな」
冷え冷えとした朝のグラウンドに、声が大きく響く。
大きく背伸びしながらグルリと見渡すと、一つのサッカーボールが目に入った。
「マサキ、勝負しよ!」
翼がポンッとボールを蹴ると、それを柾輝が足元で受ける。
中学時代、放課後によく1対1の勝負をしたことを思い出し、柾輝は少し笑う。
「今度は負けねぇからな」
あの頃と同じように翼を見据えると、力強く地面を蹴って走り出す。
勝負は太陽が高く登るまで続いた。
◇
「また僕の勝ちだね」
乱れた息を整えながら、翼がクスクスと笑う。
「あーまた俺の負けかよ!」
「僕に勝とうなんて10年早いよ」
「・・・それ10年前にも聞いたんですけど」
不満そうな柾輝を見て翼はもう一度笑うと、懐かしそうに校舎を眺める。
柾輝も翼の視線を追い、校舎に目をやった。
「もう10年も経ったんだね」
「あぁ」
翼が転校してきて、サッカー部を作って。
二人の気持ちが通じ合ったあの頃から10年。
翼も柾輝もあの頃より身長は伸びたし、顔も大人らしく成長した。
毎日会ってたあの頃と違い、今はなかなか会えなくなった。
寂しくないと言えば嘘になるけれど、でも。
二人の気持ちは変わっていないから。
「マサキー」
「あー?」
「誕生日おめでと」
「・・・うん」
「生まれてきてくれてありがと」
「うん」
「・・・好きだよ」
「知ってる」
「これからもよろしくね」
「おう」
きっとこれからもずっと、こうして続いていくのだと思う。
確証はないけれど、確信はあるから。
10年後も君の笑顔が隣にありますように。
FIN
2007年 柾輝誕生日祝い小説。
テーマは『10年』でした。
(2007・11・23)