「ねぇ、好きだって言ったらどうする?」
それは突然の告白だった。
特別な人
飛葉中の午後はのどかだった。
暦の上ではもう秋だというがまだ長袖を見かけることはない。
夏休みが終わってまだ1ヶ月も経ってないのだから当たり前といえば当たり前だけど。
って言っても、やっぱり秋というだけあって冷房が恋しくなる日は少ない。
暑過ぎず寒すぎず、心地よい日々が続いている。
そういえば、今日は小春日和だと朝テレビで聞いた事を思い出す。
天気もいいし、気分もいい。
弁当食ってお腹もいっぱい。
そんな時に授業なんて受ける気になれない。
受ける気がなければサボればいい。
数分前にそんな単純明快な答えを出した俺は今、屋上にいる。
隣には俺より一回り小さな先輩が気持ち良さそうに転がっている。
頭いい癖にサボりかよ、なんて最初の頃は思っていたけど、
こいつの性格を知った今となってはこんな事が当たり前になっていた。
俺も寝るかな、と寝転んで空を仰ぐ。
雲がゆっくりと流れる様をのんびり眺めていると自分の名を呼ぶ声が耳に入ってきた。
「マサキ」
屋上にいるのは俺と翼の二人だけなのだから、それはやはり翼の発した声だった。
起き上がらずに顔だけ翼の方に向けると、翼は少し前の俺と同じように空を見ていた。
「寝てたんじゃねーのかよ」
「んー、うとうとしてただけ」
ゴロリと身体をこちらに向けると、大きな紅茶色の瞳に俺が映る。
あの綺麗な瞳に自分だけが映るのはとても気分がいいと思う俺は、やはり翼が好きなのだろうか。
いくら可愛いとはいえ、男相手に好きだなんておかしいのはわかってる。
別に翼を女だなんて思ってないし、女扱いするつもりもない。
それどころかこいつは外見に反してすごく男らしい性格の持ち主なのだから、女扱いする方が失礼だ。
けれど。
やはり、好きだと思う。
いつもの強気な態度も、時折見せる弱さも。
翼の全てがたまらなく好きだと、守りたい・・・とは違うかもしれないけれど、傍にいてやりたいと思う。
他の奴に言わせたら、結局女扱いしてる事になるのかもしれないけど。
「ねぇ、好きだって言ったらどうする?」
「・・・は?」
それは突然の告白だった。
いや、まだ冗談かもしれないという段階だけれど。
問題はそこじゃなくて。
今ちょうど翼が好きかもしれないと考えてるときにこれはタイミング良過ぎるだろ。
とりあえず間抜けな声で一言だけ返す事が出来たけど、これ以上何を言えっていうんだ?
「だからさ、もし僕がマサキの事好きだって言ったらどうする?って聞いてるんだよ」
呆然とする俺に、翼が丁寧に主語や修飾語と呼ばれる言葉をつけて説明する。
俺としては何で急にこんな事言い出したかが聞きたいんだけど。
「何で?」
まずは最初に浮かんだ疑問を口に出してみる。
「別に。男同士で告白ってマサキはどうかなって思っただけ」
「・・・何かあった?」
確信があったわけじゃない。
けど今までの経験上、翼が急に変なことを口走るのは大抵何か悩んでるときだ。
俺がじっと翼を見ると、翼は少し困ったように笑ってまた空に目を戻した。
「今日さ、クラスメートの男子に告白されたんだ」
そいつの為にも名前は言わないけどね、と冗談っぽく翼が笑う。
「別に差別するわけじゃないけどさ、やっぱ男としては男に好きって言われてもって感じじゃん?」
同感だと思う。
俺だって翼が好きだとは思うけど、男から告白されるのも男に告白するのも基本的にパスだ。
翼だって男なのだから、男から告白されても嬉しくないと思うのは当たり前だろう。
「もちろん断ったよ。でも・・・」
翼は一度そこで言葉をくぎり、ゆっくり目を閉じる。
「『他に好きな奴いるの?』って聞かれてさ・・・」
再び目を開き、呟くように言った。
「・・・マサキしか浮かばなかった・・・」
最後は聞き取れるか聞き取れないかって程の小さな声だった。
「やっぱ俺、変かな?」
別に涙なんて浮かんでなかったんだけど。
少し困ったような翼の顔がすごく切なくて。
俺は思いっきり翼を抱きしめた。
「マサキ?」
翼が戸惑いながら俺の名を呼ぶ。
「俺も・・・翼だから」
「え・・・?」
身体を離し、今度はしっかり紅茶色の瞳を見つめる。
「俺も、翼しか思い浮かばねーから」
翼はまだポカンとした表情で俺を見ている。
もう一度、ギュッと翼の身体を腕の中に閉じ込めて、一言一言しっかりと言う。
「男とか女とか、そんな事どうだっていい。俺は、翼が、好きだ」
言ってしまったという事より何より、
ただただ翼が好きだと、翼が愛しいと思った。
翼が『マサキしか浮かばなかった』と言ってくれたのが嬉しかった。
例えそれが俺と同じ意味じゃなかったとしても。
が、一分経っても二分経っても翼は黙ったままだ。
告白してしまった側としてはとても気まずい。
「・・・翼?」
痺れを切らした俺は、翼の名を呼びながら顔を覗き込む。
否、覗き込もうとしたが出来なかった。
翼がギュッと抱きついていていた。
「翼?」
もう一度名前を呼んでみる。
「・・・今俺の顔見るな・・・」
ぽそっと呟いた翼の耳は赤く染まっていた。
たったそれだけの事で嬉しくなってしまう俺は重症だと思う。
男とか女とかじゃないんだ。
俺はただ『翼』が好きで。
翼も『俺』の事が好きでいてくれて。
きっと俺たちはお互いだけが特別で。
お互いだけが特例で。
好きだっていうこの気持ちは嘘じゃないから。
これからも『特別』なこの位置で。
FIN
翼の男らしさをアピールしてみようと思ったけど、何か無理でしたorz
(2007・2・4)