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 好きになる 

 

 

 

翼と喧嘩した。

 

わざとじゃない。

 

 

 

 

 

 

・・・・・と言ったら嘘になる。

 

 

翼いわく、原因は俺の浮気らしい。

もちろん、俺は浮気なんてしていない。
本当に翼『いわく』の話だ。

 

 

事の発端は今日。

月曜日の1限目から授業を聞くのが面倒で、
いつもの如く屋上へ続く階段の踊り場でサボっていた時の事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれー?マサキじゃん。またサボり?」

柾輝と違い、男にしては少し高めの声が階段に反響する。

 

「おー」

「相変わらず冷めた返事だねぇ~」

苦笑いしながら、声の主、椎名翼が当たり前のように柾輝の横に座る。

 

 

 

「ちょうどよかった。ちょっと聞きたいことあるんだけど・・・いい?」

「? 何だよ、改まって」

 

嫌な予感がした。

翼がこんな風にしおらしく問いかけてくるなんて、
それはそれで可愛いけど、外見を差し引けば恐怖以外の何者でもない。

 

 

 

 

「昨日一緒にいた女、誰?」

「・・・は?」

「昨日の昼頃一緒にいたあの女だよ!僕の誘い断って何してたわけ!?」

 

 

そう言われても身に覚えが・・・・・

 

 

 

 

 

・・・あった。

 

 

昨日、5つ年上の従姉弟(姉の方)がいきなり訪ねてきて、ショッピングに付き合わされた。

何でも彼氏の誕生日プレゼントを選んで欲しいとかで、断ろうとしたら
「こっちは切羽詰ってんのよ!!」
と逆切れされた上に脅され、強制連行された。

 

 

 

そこまで思い出して、「あー、あいつか。」と呟く。

 

「思い出したようだからもう一回聞くけど、あの女とどういう関係なわけ?」

相変わらず不機嫌な表情は崩さずに、上目遣いで睨んでくる。

 

 

 

 

ここで正直に話せば、誤解も解けて一件落着。
いつもの通りハッピーエンド。

 

でも、『嫉妬』という感情をあらわにしている翼なんてそう易々と見れるものではない。

 

だから、少しだけ・・・ほんの少しだけ天邪鬼な回答をしてみる。

 

 

 

 

 

「さぁ?誰だっけ?」

「・・・・・っ!!」

 

 

普段から大きな目が、さらに大きく開かれる。

そして始まる翼のマシンガントーク。

 

「何だよそれ!!僕をからかってんの?昨日一緒にいたやつくらい覚えとけよ!
 それとも何?お前、見ず知らずの、名前も覚えてない程度の女と仲良くショッピングするのが趣味なわけ?」

 

毒舌マシンガントークを得意とする翼は、普段から話し出すと止まらない訳ではない。
マシンガントークはあくまでも『得意』なのであって、それがイコール普段の翼とは繋がらない。

普段の口数は多いというほどでもなく、口達者なのは変わらないにしても、至って普通レベルだ。

つまり、翼のマシンガントークは、楽しんでわざとやっているか、本気で怒っているかなのだ。

 

「だいたい、結構前から約束してたのに、当日いきなりキャンセルってどういうこと?
 昨日のメール見た限りでは、明らかに昨日急に入った予定だよね?
 あの女と出かけることは僕との約束よりそんなに大事な一大イベントだったのかよ!」

 

今の場合、もちろん後者の『本気で怒っている』以外に当てはまらない。

ヤバイとは思うけれど、ヤキモチを焼いてくれてる翼を見ていると、心とは裏腹に自然と口元が緩む。

 

 

 

「人が真剣に話してるのに何笑ってるのさ!
 一体こっちがどんな気持ちで・・・・っっ」

 

 

大きな瞳が不意に揺らめき、言葉が急に途切れる。

 

 

 

ヤバイ。やり過ぎた。

 

 

そう思ったときにはすでに遅く、翼の目から涙が零れ落ちる。

泣き顔を見られたくないのか、翼はすぐさま背を向けた。

 

 

 

 

「ごめん」

 

 

 

 

肩を震わせる後ろ姿をギュッと抱きしめる。

 

 

「・・・マサキなんか嫌いだ・・・っ」

「俺は翼のこと好き」

 

 

そっとこっちを向かせ、優しく唇を重ねる。

 

 

「昨日の人とは何でもないから」

「・・・・・じゃあ、何で・・・・・」

「あいつ、俺の従姉弟なんだよ。彼氏のプレゼント買うとかで脅されて強制連行された」

「・・・ホントに?」

「ホントに」

 

 

ポンポンと髪を撫でてやると、ギュウっと抱きついてきた。

 

 

 

 

 

 

 

そんな君が、とても愛しくて。

愛しくて愛しくてたまらないから。

 

 

 

 

ほら。

今日もまた、俺は君を好きになる。

 

 

 

 FIN 

 

 


2005年 翼誕生日祝い小説。

(2005・4・19)

 

 

ばっく