君と熱に浮かされたい
「38度7分・・・か」
体温計をしまい、ゴロンと仰向けになる。
目だけを少しずらせば、昨日の雨が嘘のような晴天がカーテンの隙間から見えた。
こんなに良い天気なのだから、無理してでも愛しいあいつとデートしたいところだ。
しかも、今日が自分の誕生日となれば尚更。
しかし、そう甘くないのが世の中というもの。
同室の渋沢が心配して外に出してくれないのだ。
「誕生日に風邪引くとは、俺もついてねーな・・・」
「そう思うのなら、ゆっくり休んで早く治すんだな」
いつの間にか横に来ていた渋沢が、薬と水を手渡す。
少し起き上がり、それを受け取る。
「それを飲んだら、少し眠るといい」
「あぁ。サンキューな、渋沢」
苦い薬を無理やり飲み込みながら、礼を言う。
起き上がったついでに、携帯を手に取りメールを作成する。
連絡なしにデートキャンセルした日には、何を言われるか・・・。
・・・もとい、何時間説教されるか想像もつかないくらい恐ろしい。
送信後、再びベットに横になり、返事を待つ。
しかし、返事はなかなか来ない。
しばらくすると、薬に入っている睡眠薬が効いてきたのか、そのまま眠りについてしまった。
◇
2時間くらい経った頃。
目を覚ますと、目の端にチラッと影が映った。
渋沢にしては小さすぎるその影と、不意に目が合う。
「あ!やっと起きたみたいだね」
聞き慣れたその声に驚き、急いで起き上がる。
寝ぼけてた頭も一気に覚めてしまった。
「翼!?お前、何でここに!?」
「亮がメール送ってきたんじゃん」
「いや、メールはしたけど、『来い』とは言ってねぇし」
そう。確か、椎名に送信した内容は、
『ゴメン。風邪引いて今日出かけるのダメになった。』
だったはず。
『会いに来い』なんて一言も書かれていない。
「亮は僕に会いたくなかったの?」
椎名が上目遣いでじっと三上を見つめる。
少し拗ねたような表情をすることも忘れずに。
そんな顔をされたらさすがの三上であろうとイチコロである。
「・・・会いたかった・・・」
「よろしい!」
にっこりと笑って三上の頭を撫でる。
この顔は絶対わかっててやってる顔だ。
くそっ。
これじゃあ椎名の思い通りじゃねぇか。
いつもなら軽く流すくらいできるのに。
きっと全部、この熱のせいだ。
全部。
全部・・・。
「ガキ扱いしてんじゃねーよ」
言うな否や、椎名の腕を引き、強引にベットに押し倒す。
「病人が何してんのさ」
「俺、熱あるんで自分でも何やってるかわかりませーん」
「何それ・・・って!ちょっと!どこ触ってるんだよ!!」
「はいはい」
全部熱のせいにして君と愛しあいたいと思ったんだ。
本当はすごく会いたかった君と。
言わなくてもちゃんと会いに来てくれた君と。
何しろ、せっかくの自分の誕生日なんだし。
この俺がわざわざ風邪まで引いてやってるんだぜ?
それくらい許されるだろ?
FIN
2005年 三上誕生日祝い小説。
途中力尽きて最後ヤケになった様子がイタい位滲み出てます。
(2005・2・4)