君と熱に浮かされたい 

 

 

 

「38度7分・・・か」

 

 

体温計をしまい、ゴロンと仰向けになる。
目だけを少しずらせば、昨日の雨が嘘のような晴天がカーテンの隙間から見えた。

こんなに良い天気なのだから、無理してでも愛しいあいつとデートしたいところだ。
しかも、今日が自分の誕生日となれば尚更。

しかし、そう甘くないのが世の中というもの。
同室の渋沢が心配して外に出してくれないのだ。

 

 

「誕生日に風邪引くとは、俺もついてねーな・・・」

「そう思うのなら、ゆっくり休んで早く治すんだな」

いつの間にか横に来ていた渋沢が、薬と水を手渡す。
少し起き上がり、それを受け取る。

 

「それを飲んだら、少し眠るといい」

「あぁ。サンキューな、渋沢」

苦い薬を無理やり飲み込みながら、礼を言う。

 

 

起き上がったついでに、携帯を手に取りメールを作成する。

連絡なしにデートキャンセルした日には、何を言われるか・・・。
・・・もとい、何時間説教されるか想像もつかないくらい恐ろしい。

 

送信後、再びベットに横になり、返事を待つ。

 

しかし、返事はなかなか来ない。
しばらくすると、薬に入っている睡眠薬が効いてきたのか、そのまま眠りについてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2時間くらい経った頃。
目を覚ますと、目の端にチラッと影が映った。
渋沢にしては小さすぎるその影と、不意に目が合う。

 

 

「あ!やっと起きたみたいだね」

聞き慣れたその声に驚き、急いで起き上がる。
寝ぼけてた頭も一気に覚めてしまった。

 

 

「翼!?お前、何でここに!?」

「亮がメール送ってきたんじゃん」

「いや、メールはしたけど、『来い』とは言ってねぇし」

 

 

そう。確か、椎名に送信した内容は、
『ゴメン。風邪引いて今日出かけるのダメになった。』
だったはず。

『会いに来い』なんて一言も書かれていない。

 

 

 

「亮は僕に会いたくなかったの?」

椎名が上目遣いでじっと三上を見つめる。
少し拗ねたような表情をすることも忘れずに。

そんな顔をされたらさすがの三上であろうとイチコロである。

 

 

 

「・・・会いたかった・・・」

「よろしい!」

 

 

 

にっこりと笑って三上の頭を撫でる。
この顔は絶対わかっててやってる顔だ。

 

 

 

くそっ。
これじゃあ椎名の思い通りじゃねぇか。
いつもなら軽く流すくらいできるのに。

 

 

 

きっと全部、この熱のせいだ。

 

 

 

全部。

 

 

 

 

 

全部・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガキ扱いしてんじゃねーよ」

言うな否や、椎名の腕を引き、強引にベットに押し倒す。

 

「病人が何してんのさ」

「俺、熱あるんで自分でも何やってるかわかりませーん」

「何それ・・・って!ちょっと!どこ触ってるんだよ!!」

「はいはい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全部熱のせいにして君と愛しあいたいと思ったんだ。

 

 

本当はすごく会いたかった君と。

言わなくてもちゃんと会いに来てくれた君と。

 

 

 

 

何しろ、せっかくの自分の誕生日なんだし。

この俺がわざわざ風邪まで引いてやってるんだぜ?

 

 

それくらい許されるだろ?

 

 

 

 FIN 

 

 


2005年 三上誕生日祝い小説。
途中力尽きて最後ヤケになった様子がイタい位滲み出てます。

(2005・2・4)

 

 

ばっく