『おめでとう』
たった5文字の言葉なのに、
どうしても口にすることが出来ない・・・。
否、口に出す事は出来るけど、
どうしても素直にお祝いできない・・・。
今日はあいつの誕生日なのにね。
素直な気持ちで
「そういえば・・・今日ってお前の誕生日だよね?」
ベッドに転がったまま、読んでいる雑誌から目を離さないまま、
ごく自然に、あたかも今思い出したかのように言ってみる。
「あー、そうかも。何、急に?」
「別に。何となく思い出したから」
・・・嘘ばっかり。
本当は1週間も前からずっと考えてたくせに。
今日だって『暇だったから』、なーんて言って柾輝の家に来たけど、
本当の理由は『お前の誕生日だったから』。
「プレゼントでもくれんの?」
柾輝が笑顔でベッドの上の僕に寄ってくる。
あえてそちらを見ずに、次のページをめくりながら答える。
「何か欲しいものでもあった?」
そっけない返事。
あーもう!
何でこんな返答しかできないんだろう?
ちゃんとプレゼントだって持ってきてるのに・・・。
心とは裏腹に、口だけが勝手に動いてしまう。
「一応言ってみたら?もしかしたらあげるかもよ?」
何て可愛げがないセリフ。
自分でも嫌になる。
『おめでとう』って言って、
プレゼントを渡せばいいのに、
何でそれだけの事ができないんだろう。
何で、
もっと素直になれないんだろう・・・。
自己嫌悪に浸っていると、雑誌の上に影が見えた。
顔を上げると、すぐ近くに柾輝の顔があって、
いともあっさりと唇を奪われる。
「翼がいい」
一言、呟くような声が聞こえ、ギュッと抱きしめられる。
いつもそうだ。
柾輝は、
僕がどんなに意地になってても、
僕がどんなにヒドイ事を言ってしまっても、
ギュッて抱きしめて、
一番欲しい言葉をくれる。
いつもなら黙ったままだけど。
いつもなら何も言えないままだけど。
せめて、今日くらいは素直になりたい。
「・・・マサキ」
「ん?」
きっと柾輝にはバレバレなんだ。
どうせ、真っ赤な顔見られちゃうなら、
どびきりの笑顔で言ってやる。
「誕生日、おめでとう!」
FIN
2004年 柾輝誕生日祝い小説。
(2004・11・29)