[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

 

 ロード 

 

 

 

「ミルクティーとレモンティー、1つずつ」

「かしこまりました」

 

注文を紙に書き、ウェイトレスが奥へと入っていく。
その後ろ姿を見送ると、佐藤は椎名の方へ体を向けた。

 

 

「ホンマ久しぶりやなぁ。元気やった?」

「見たらわかるだろ。どっか悪いように見える?」

 

二カッと笑顔で問いかけた佐藤に対し、
ぶすっと不機嫌な顔で椎名が答える。

それを見て、佐藤の笑顔も苦笑いに変わった。

 

 

「まーださっきの事気にしとるん?」

「別に!」

口ではそう言うものの、椎名の体からは思いっきり不機嫌オーラが出ている。

 

 

 

 

事の発端は、約30分前にさかのぼる。

椎名はその可愛らしい外見から、いつものようにナンパにあっていた。
何度も「俺は男だ」と訴えているのだか、男は全く信じようとしない。

だんだん腹が立ってきたので、一発殴ってやろうかと拳を握り締めたその時、
ちょうど佐藤が通りかかり、助けてくれたのである。

 

 

 

 

それだけと言えばそれだけの話だが、
人一倍女顔を気にしている椎名にとって、男に助けられたというのはかなりの屈辱だったのだろう。
さっきから佐藤が、どんなに話を持ちかけても、一向に機嫌が直る様子はない。

佐藤もだんだん気まずくなり、自然と会話は途切れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせいたしました」

どれくらい経ったのだろう。
しばらくして、さっきのウェイトレスが注文の品を運んできた。

佐藤が軽く会釈し、それを受け取る。
椎名も佐藤に続き、軽く会釈した。

 

 

「知っとった?ここの紅茶、めちゃくちゃうまいんやで♪」

 

佐藤が何とか機嫌を直そうと、再び話しかける。
椎名は「ふ~ん」とだけ答え、早速ミルクティーに口を付ける。
ミルクティーのいい香りが、甘く口の中に広がった。

佐藤の言うとおり、とてもいい味が出ている。
甘さも丁度よく、椎名の顔が少し綻んだ。

 

 

椎名の様子を見て、佐藤が安心した顔をする。
続いて自分も、少し飲みにくそうに左手でカップを取った。

 

 

それに気づいた椎名が、眉間にシワを寄せる。

「腕の怪我・・・まだ治らないのか?」

「ん?あぁ、これか?もう平気やねんけど、
センセがちょっとくらい大人しゅうしとけゆうてな~」

椎名に気を遣わせまいと、明るく言い放つ。
しかし、椎名はカップを置き、再び黙り込んでしまった。

 

 

「姫さんのせいやないって!そんな気にせんでええよ」

佐藤が慌てて励ますと、椎名がガバッと顔を上げた。

「でもっ・・・その怪我のせいで選抜ダメになったんだろ?
・・・・・ホント、ごめん・・・・・」

「ホンマ違うって。それに俺、最初からサッカーやる資格なんかないねん」

「資格がない・・・?何だよ、それ?」

 

 

椎名が聞き返すと、佐藤はしまったという顔をして、慌てて口を塞いだ。

 

 

「いや、何でもあらへん。とにかく、姫さんは何も気にせんでええから!」

「い~や、気になるね!こっちは自分が怪我させたのが原因だと思ってかなり悩んでるんだよ?
それを『気にするな』の一言で片付けられると思ってんの?
少なからず、僕にはそれを聞く権利があると思うんだけど」

「・・・・・。」

「話したくないなら無理にとは言わないけどさ。
でもそんな顔してるくらいなら話した方がすっきりするんじゃない?
僕だって相談くらい乗ってやれるし。で?一体どういうわけなのさ?」

 

ニッコリと笑顔でいつものマシンガントークを繰り出す。
佐藤はそれに圧倒されながらも、断ろうと椎名の顔を見る。

 

 

 

 

―――――否、見つめる形になってしまった。

 

 

 

まっすぐと自分を見据える大きな瞳。
それは全てを見透かしているようで・・・。

 

その瞳を見ていると、自然と口が動いていた。

 

 

 

 

「俺な、ある老舗の店主とその愛人の間に産まれた子なんよ・・・。
だからって引け目とかはなかったんやけどな」

 

ポツリポツリと、佐藤が呟くように言葉を発する。
椎名は、さげずむでもなく、また同情するでもなく、真剣にその話を聞いている。

 

「でも小6ん時・・・おとんから跡取りに来んかって話がきてな。
あん時、跡継いどったら今もサッカーやっとたかもしれん。
けど、跡継ぐんが嫌で・・・自由になりたくて・・・」

 

 

そこで佐藤は一息置いた。

 

 

 

 

「自由を求めて、俺は、家出したんや」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――― 俺は自由や ―――――

 

 

佐藤の脳裏に、あの日の事が鮮明に浮かんでくる。

 

 

 

 

 

 

「あの日、俺は望みどおり自由を手に入れた。
 おとんのおらんここは俺にとって本当に自由の国に思えたんや。

 その代償がサッカーやったっちゅーわけや」

佐藤がヘラッと笑ってみせる。
が、椎名は呆れた顔をして、一言放った。

 

 

 

 

「バッカじゃないの?」

 

 

 

 

「・・・はい?」

話せと言われて話してみたのに、返ってきたのは『バカ』の一言。
これにはさすがの佐藤も混乱している。

しかし、椎名は特に気にもせず、話を続けた。

 

「ここが自由の国のわけないじゃん。てか、自由の国なんてあるわけないだろ?
自由を手に入れたからサッカーは出来ない?
はっ!わけのわかんないこと言わないでくれる?
そんなに自由になりたいなら、すぐに見つかりそうな日本じゃなくて海外に高飛びすればいいだろ」

 

再び繰り出される椎名のマシンガントーク。
その勢いは、先程よりも威力を増していて、佐藤が口を挟む隙間もない。

ただ小さな唇から出てくる、数多くの言葉を聞き取ることだけで精一杯だった。

 

「だいたい、自由になれたならサッカーだって自由にできるはずだろ?
自由の代償とか言ってるけど、お前のは逃げてるだけだ!」

 

 

その言葉に、佐藤はハッとした。

『逃げている』
確かにそうかもしれない・・・。

 

 

 

 

「サッカー、好きなんだろ?だったら・・・逃げるなよ」

 

椎名がじっと佐藤を見つめてくる。

あの、全てを見透かしているような瞳で。

 

 

 

 

 

嘘を、言ってはいけないと思った。

この気持ちを、ごまかしてはいけないと思った。

 

 

 

 

 

 

『自由の国』を否定した君を、

君のその強さを、信じたかったから。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・せやな。俺、もう一回頑張ってみるわ」

「この椎名翼様が励ましてやったんだから、当たり前だろ?
今度会ったときは胸張って『サッカー好き』だって言えよ」

「そしたら姫さん、俺と付き合うてくれる?」

「・・・バーカ。俺を落とそうなんて10年早いよ」

 

 

「相変わらずキッツイなぁ」とシゲが頭をかく。
それを見て、椎名がおかしそうに笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『自由の国なんてあるわけないじゃん』

 

 

 

一般的には絶望の言葉とされるその台詞を、君はあっさり言い放った。

 

 

でも何故か、君が言うと希望の言葉に聞こえるから不思議。

君がいたから、自分の道を見つけられたんだ。

 

 

 

 

『自由の国』を否定した強い君。

いつか、君に吊り合える日が来たなら、その時は、

 

 

 

 

 

胸を張って『好きです』と君に言いたい。

 

 

 

 FIN 

 

 


何かのドラマを見て思いついた話。
2008年3月現在、実はいまだにタイトルが仮だったりします。
変えたいと思うけど、考える気力がない・・・orz

(2004・11・23)

 

 

ばっく