柾輝誕生日2010 

 

 

 

部活終了後。
外はもうすっかり暗くなっており、室内の蛍光灯の灯りが煌々とより明るく見える。
夏ならばまだ少し明るい時間だが、流石に冬は日が暮れるのが早い。

部室に残っているのは俺と翼だけ。
俺はもういつでも帰れるのだが、部長は色々忙しいらしい。
翼は先に帰っていいと言うが、見た目美少女のコイツを一人で帰らせるというのはどうも気が引ける。
・・・少しでも長く翼といたいから、というのもあるけどな。

 

そんな俺の思いを知ってか知らずか、翼がこんな提案をしてきた。

「ねぇマサキ、ゲームしよっか」
「ゲーム?」
「今から背中に文字書くから、何書いたか当てろよ」

いそいそと俺の背後へ回り込む翼。
ゲームなんてメンドクセェと一瞬思ったが、その分翼といる時間が延びるのならば、悪い気はしない。
大人しく翼の提案に従う事にした。

「何書くんだ?ひらがな?カタカナ?」
「漢字、ひらがな、カタカナ、アルファベット、英単語、数字のうちのどれか」
「・・・どれか一つにに統一する気は?」
「ないね。どれかに統一しちゃったら、すぐ分かってつまらないだろ」

チラリと振り返ると、翼の満面の笑みが見えた。
いや、そんな楽しそうにゲームの難易度上げられても困るんスけど先輩。
そもそも、漢字と英単語が入ってる時点で難易度が半端ないんスけど先輩。

もちろん、俺がそれを言ってもルールを変えるつもりはないだろうけど。
まぁ翼は俺の頭の出来はよーく知ってるだろうから、そんな無理難題は出してないだろう。
・・・出さないと信じたい。

「はい、スタート!」

言うや否や、翼は早速俺の背中に指を這わせていく。

 

・・・横棒が2本?

「『二』?」
「正解。んじゃ、次な」

 

次は、ウネウネとクロスしながら丸の様なものが2つ。

「数字の『8』?」
「お、やるねぇ。次は・・・」

 

横棒が三本・・・漢数字の『三』か、それともカタカナの『シ』か・・・。
いや、翼は『シ』ならこんな書き方してなかったはずだ。

「『三』?」
「正解!これで3問連続正解だね。簡単すぎる?」
「まぁ今の所は、な」
「次はもうちょっと難易度上げるよ」
「・・・マジで?」
「マジで」

 

難易度があがったという次の問題は、確かに難しく、いやにゴチャゴチャしていた。
画数多いって事は漢字・・・だよな。
えーっと、ノ書いてチョンチョンチョンと点3つ打って・・・・・・。

いや、全然分かんねぇ。
本当に俺の知ってる漢字か?

「分かった?」
「いや、全然」
「なら、もう一回書くからな」

ノ書いて、チョンチョンチョンと点3つ打って・・・いや、4つ?
・・・あ、おい、まだ先進むなよ。速いって。
えーと・・・あれ?また点かよ。
いやに点の多い漢字だな。

・・・ダメだ、サッパリ分からなかった。

「はい終わりー。どう?今度は分かった?」
「・・・・・・パス」
「・・・パス早いよ」
「分かんねぇし」
「それを考えるのが楽しいんだろ」

そんな事を言われても、分からないものは分からない。
今のは流石にゴチャゴチャし過ぎだって。

「まぁ今のはちょっと難しかったかもね。違うのにするよ」

 

そう言って書き始めた文字は、先程より確かに画数が格段に減っていた。
しかし・・・なんだこれ?
画数が多いが、どうも漢字らしからぬ曲線が入った様な・・・。

「どう?分かった?」
「・・・班長の『班』?」
「ブー。ハズレ」
「・・・・・・」
「ヒントあげよっか?」
「頼む」
「漢字じゃなくて、英単語だよ。マサキも分かるレベルの簡単なヤツ」

もう一度同じ文字、もとい英単語を書き始める翼。

アルファベット・・・アルファベット・・・。
『e』・・・と、『y』・・・に、もう一回『e』・・・?
・・・『eye』か!

「『eye』!」
「正解!」

嬉しそうに微笑む翼に、思わずこっちまで頬が綻ぶ。
こんな事で喜んでくれるのなら、どれだけでもこのゲームを続けてやりたい。
・・・などと考えてしまう自分は、色んな意味でヤバいと思う。

 

「次は?」

促してやると、

「やる気だね。じゃあ次は・・・」

もう一度嬉しそうに微笑み、次の文字を書き出した。

アルファベッドの『L』みたいな線と、それに重なるように縦にも1本。
これはもしかして・・・

「翼の背番号」
「当たり!・・・だけど、もっと普通に答えろよ」
「これしか浮かばなかったし」
「何言ってんだよバーカ」

ペシ、と後頭部を叩かれ、振り返る。
・・・が、すぐさま「もう一問!」と前を向かされてしまう。
照れくさくて・・・だったら嬉しい。
そんな漫画みたいな展開ないだろう事は百も承知だけど。

 

次に書かれた文字は、縦棒と両側に点、横棒にまた縦棒に・・・。
・・・ん?なんかまたゴチャゴチャ書いてるな。
これも漢字か?
あースゲェよく知ってる気がするけど、全然出てこねぇ。

「分かった?」
「もう少しで分かりそうな気がした」
「もう一回書くよ」
「おう」

縦棒、点2つ、横棒、縦棒2つ・・・。
これは『光』だよな。
んで、その横にまだ何か・・・・・・あれ?
もしかしてこれ・・・。

「『輝く』?」
「・・・!正解!よく分かったね」
「一応書き慣れてる文字くらいは、な」

じゃあ、と言いながら、後ろから顔を覗かせる翼。
振り返ると、悪戯っ子のような表情の翼と目があった。

 

「問題です。僕は何て書いたでしょう?」
「・・・・・・は?」
「今まで書いた文字、全部繋ぎ合わせてみなよ」

覚えてる?と、翼は俺の後ろからホワイトボードの前へと移動。
マジックを持ち、俺に言ってみろとばかりに視線を向ける。

「えーと、今のが『輝』くだろ」

俺の声に合わせて翼がホワイトボードに文字を書いていく。
最後が『輝』。
その前が『4』。
その前に『eye』、『三』、『8』、『二』。
それを正しい順番に並べ替える。

出来上がった並びは、『二 8 三 eye 4 輝』。

正直、何の事かさっぱり分からない。
暗号だろうか?

「に・・・わ・・・さん・・・目・・・し・・・き?」

とりあえず繋ぎ合わせてみると、翼が噴き出した。
「何だよそれ」と、堪え切れない、という感じでお腹を押さえている。

「ヒント!目の付けどころはいいけど、読み方が違うんだな〜。特に最後はちょっと難しいかもね」

最後?
『輝』の他の読み方っていうと・・・・・・『かがやく』?
いや、送り仮名がないって事は、『てる』か?

 

てる・・・・・・。

4てる・・・・・・。

eye4てる・・・・・・。

・・・・・・。

 

・・・・・・あ!

 

 

 

突然閃いてしまった。

 

二8三eye4輝。

283 eye4てる。

 

 

 

 

 

「『翼、愛してる』」

 

 

 

「大正解」

翼が満足そうに目を細める。
俺もつられて少し笑った。

でも・・・・

 

「俺、翼に告白した記憶なんてないんですけど」

疑問をそのまま口に出してみる。

「うん。された記憶もないね」
「じゃあなんで・・・」

言うと、トコトコっと俺の前まで歩いてきて、特上の笑顔で一言。

 

「だってマサキ、俺の事好きだろ?」

 

・・・なんで知ってんだよ。
一応隠してたつもりなんですけど。

「バレバレなんだよ」と翼が笑う。
得意のポーカーフェイスはどうやら、翼には全く意味を成していなかったらしい。
なんかスゲェ悔しい。
色んな意味で負けた気がした。

 

「言って欲しかったのかよ」

強がりと一つ言ってみる。

「言わせたかったんだよ」

しかし、やっぱり敵わない。
頭の回転が速いこの小さな先輩は、こういう所でもやっぱり頭の回転が速いらしい。
いつもの強気な瞳に勝気な態度。

まぁ、そんな翼だから好きになったんだけどな。

 

「で?返事は?」
「こんな事、好きでもない奴に言わせると思う?」
「・・・思いません」

翼らしい答えに、2人でまた笑い合って。
そろそろ帰るかと、ようやく腰を上げた。

 

戸締り確認。
電気を消灯。
最後に扉にカギをかけ、さぁ行くかという時に翼から一言。

「あ、そうそう!マサキ!」
「ん?」

 

「俺も愛してるよ」

 

・・・そういう不意打ちは卑怯だろ。

暗くて見えなかったけど、翼はきっといつもの強気な笑顔だったに違いない。

 

 

 

一生この人には敵わないかもしれない、と思うと同時に、

それでもいいか、と感じてしまったのは惚れた弱味だろうか。

 

 

 

 FIN 

 

 


2010年 柾輝誕生日祝い小説。
3ヶ月遅れの2011年2月19日 にブログにアップしたものを再アップ。

(2011・2・22)

 

 

ばっく