翼誕生日2010 

 

 

 

「・・・好きだ・・・」

 

前を行く小さな背中に、そっと呟く。
風の音にさえ掻き消されるような、小さな声で。

 

「何か言った?」

案の定、翼には届いてなかったらしい。
キョトンとした面持ちで此方を振り返える。

「『誕生日おめでとう』っつっただけ」

先ほど部室で行われていた小さなパーティを頭に浮かべる。

 

皆で金出し合って小さなケーキを買って。
翼が監督に呼ばれた隙に部室にこっそり準備して。
翼が部室に戻ってきたと同時に、皆で「HAPPY BIRTHDAY!」。

ありきたりなドッキリに、翼は「お前ら態度でバレバレなんだよ」なんていつも通りの毒を吐いて。
それでも、少し頬を染めながら「サンキュ」と小さく言った。

 

その時の笑顔が、まるで花が咲いたように綺麗で。

たった、その一瞬の出来事が、まるでスローモーションのように見えて。

たった、それだけの事だったのに。

 

素直じゃないけど、素直な翼が。

自分の感情を隠さず見せてくれるくせに、天邪鬼な翼が。

 

 

あぁ、俺は好きなんだ。

 

なんて、思ったんだ。

 

 

「おめでとう」なんて、さっき何度も言った言葉だ。
しかし、それしか言い訳が浮かばなかったんだから仕方ない。

「おめでと」

もう一回言うと、

「・・・ありがと」

短い答え。

 

翼の頬が少し赤くなってる様に見えたのは俺の見間違いだろうか。

 

 

その後、たわいない話をしながらそれぞれの帰路に着く。
自分の部屋で鞄を置き、ベッドに転がると、無意識のうちに大きなため息が漏れた。

「あーバッカみてぇ」

もう少し大きな声で言えば良かったと後悔する自分が。

届かなくて良かったと安心する自分が。

 

いつかこの気持ちを伝えられる日が来るのだろうか・・・。

 

そんな事を考えていると、ふいに携帯がメールの受信を告げた。
ノロノロと鞄から取り出し、中を見てみる。

送り主は・・・翼?

 

 

 

 

『言うのが遅いんだよバーカ』

 

 

 

 

一瞬目を丸くして、途端、噴き出してしまった。

聞こえてたならワザワザ聞き返すなよ、とか。
聞こえてたくせにスルーかよ、とか。

色々突っ込みたい事はあるけど、何も言えなかった。

 

 

 

天邪鬼で素直なアイツが俺は大好きなんだと、もう一回自覚してしまったから。

 

 

 

 FIN 

 

 


2010年 翼誕生日祝い小説。
4月19日にブログにアップしたものを再アップ。

(2010・5・5)

 

 

ばっく