I need you 〜太陽と月〜
夕飯のいい匂いがそこら中からしてくる頃。
飛葉中の椎名翼と黒川柾輝は、河原沿いの道を並んで歩いていた。
部活もあり、疲れていたためか、二人とも歩調はゆっくりしている。
いつもよりゆっくり歩いているため、ふと目に入ったのだろう。
二人の会話には、今日の見事な夕焼け空の事が出ていた。
と言っても、柾輝は翼ほど興味があるわけではないらしく、
先程からずっと、翼の話を黙って聞いている。
翼の話が一段落した頃、ふと柾輝が口を開いた。
「翼って太陽みたいだよな」
翼は訳がわからず、きょとんとしながら立ち止まる。
柾輝もそれに気付き、そこから2,3歩進んだ所で振り返りながら立ち止まった。
「何で僕が太陽なわけ?てかむしろ、どこからそんな考えが出たんだよ」
少し呆れたように翼が言う。
何の脈絡もなく言われたのだから、当然といえば当然の答えである。
「何となく夕日見てて思ったんだよ。
何でかわかんねーけど・・・翼って太陽って感じするじゃん」
そう言って笑う柾輝に、翼はドキッとした。
天然なのか確信犯か知らないが、柾輝はときたまこんな落とし文句を言う。
翼は今まで、多くの人に告白されてきているし、こういう台詞は慣れているはずだった。
なのに、相手が柾輝だと妙に照れくさくて、嬉しくて。
動揺している事が柾輝にバレないように、翼が言い返す。
「僕が太陽なら、マサキは太陽が大好きなヒマワリです。とでも言いたいの?」
「違う違う。翼が太陽なら、俺はあれ」
翼の動揺に気付き、柾輝は少し微笑みながら太陽の反対側を指差す。
その先には、白く光る満月が浮かんでいた。
「・・・月?」
「そう、月」
言葉の意味がうまく飲み込めず、翼が頭をひねる。
そんな翼の様子が可愛くて、柾輝は思わず口元が緩んでしまう。
「お前、狼男にでもなりたいわけ?」
月=狼男という安易な考えに、柾輝は思わず心の中でつっこみを入れる。
とりあえず口に出すのは何とか堪え、問に答えた。
「違うって。今日、理科の時間に、月が何で光ってるか習ったんだよ」
「だから俺は月」と言って、柾輝が再び歩き出す。
翼もそれに遅れないよう、再び歩き出した。
翼は、しばらく黙って何か考えていたが、
やがて何か思いついたらしく、柾輝にバレないよう悪戯っぽい笑みを浮かべた。
そして、半分からかいぎみに、半分本気で柾輝に尋ねる。
「ねぇ、マサキは何で『月』なの?はっきり言ってくれなきゃわかんないよ」
返ってくる言葉はだいたい分かっていたけど。
「ほら、月って、太陽の光が月面に反射して光ってるじゃん」
君の口から、その言葉が聞きたくて。
「だーかーら!それがどうしてマサキと繋がるのさ!」
帰ってきたのは予想通りの言葉なのに。
「つまり・・・・・太陽と月みたいに、俺には翼がいないとダメってことだよ」
嬉しさと喜びは、予想をはるかに超えていて。
翼の頬は、夕日のせいだけでなく赤く染まっていた。
思わず黙り込んでしまう翼。
「分かってて言わせたくせに、何照れてんだよ」
少しからかうように柾輝が言う。
翼が言い返そうと顔を上げると、柾輝の顔も少し赤かった。
「お前こそ、そう思うなら照れてんじゃねーよ」
お互い悪態をついてみるものの、赤く染まった顔では今ひとつ迫力がない。
何だかそれがおかしくて、二人で顔を見合わせて笑った。
◇
ひとしきり笑った後、ふと、翼が空を見上げながら呟くように話し出した。
「ねぇ、太陽の相方捜しの話・・・知ってる?」
「何だよそれ?神話か何か?」
「小さい頃読んだ絵本の話だよ。
昔、太陽はずっと一人ぼっちだったんだ。
寂しくて、誰かに見つけて欲しくて、太陽は光った。
そして誰かがその光に気付いて、答えてくれるのをずーっと待ってた。
そこへ現れたのが『月』だった。
月は光を反射させ、太陽に返事をした。
『僕が傍にいるよ』って」
そこまで話すと、翼は柾輝の顔をじっと見つめた。
そして、いつもの、あの自信たっぷりの笑顔で止めを刺す。
「それからの太陽は、『月に会いたくて』光るようになったんだよ」
「・・・へ?それってどういう・・・」
ニーッコリと、とぼけるように、嬉しそうに翼が笑う。
この顔からして、柾輝が考えは正解なのだろう。
そう思うと、柾輝はまた自分の顔が熱くなるのを感じた。
それを見た翼が、再びからかうように笑い出す。
笑われて、少しムッとしたものの、
翼があまりにも楽しそうに笑うので、柾輝もつられて笑顔になる。
今日わかったこと。
――――― 僕にはやっぱり、君が必要なんだ ―――――
FIN
太陽と月の話は管理人の自作です。
(2004・11・23)