※ パラレル注意 ※
視線
「ここ、テストに出るからなー」
そんな先生お決まりのセリフを聞き流しながら、アレンは窓の外に目を向けた。
気持ちよく晴れた空に、サンサンと光る太陽。
真面目に授業を受けているのがバカらしくなるほどの日差しに、そっと目を細める。
窓際の丁度ど真ん中。
ポカポカとした日差しが気持ちよく降り注ぐ、絶好の居眠りスポット。
その席の主アレン・ウォーカーは、押し寄せてくる眠気に、一つ大きな欠伸をした。
アレンは比較的真面目な生徒だ。
早弁こそするものの、居眠りは滅多にする事はない。
しかし、丁度良い日差しに退屈な時間とくれば、眠くなるのはもはや必然である。
というのも、アレンはつい最近この学園に転入してきた事に理由がある。
学校によって授業の進み具合は違うのが当然だが、前にいた学校はなかなか進度が早かったらしく、
今受けている授業と内容が被っているのだ。
先生が違うとはいえ、使用している教科書も同じで、授業内容もほぼ変わらないという退屈さ。
オマケに、お昼を食べ終わった後というベストコンディション。
まるで眠れと言わんばかりの状況に、アレンはさてどうしようかと考える。
理性と本能の狭間で揺れ動きながら、無意識に流れゆく雲を目で追う。
その間も絶え間なく降り注ぐ暖かな光に、段々とアレンの瞼も重くなってくる。
(よし、寝よう)
アレンがそう決心し、雲から目を逸らした瞬間。
窓の外から女子生徒の黄色い歓声が飛んできた。
その声に誘われ、再び窓へと視線を戻すと、グラウンドではサッカーが行われていた。
眠気から覚醒しないまま、アレンがぼんやりとその様子を眺める。
一つのボールを懸命に追う男子達。
周りでその姿に歓声を飛ばす女子達。
そんな中、とある人物が目に留まり、アレンは思わず見入ってしまう。
(あの人上手い)
授業でやっているため、ルールこそ知っていれど、サッカーに特別興味があるわけではない。
そんなアレンの興味を引いたのは、一人の男子生徒だった。
長い黒髪を後ろで一つに束ね、遠目からでも分かる整った顔立ちをした彼。
協調性というものをあまり感じさせないが、傲慢な個人プレーをするわけでもなく。
ただ静かに、そして誰よりも軽やかに、小麦色の中を走っていた。
確か名前は──────
「神田くん頑張ってー!」
そうだ、神田だ。
神田ユウ。
アレンより2つ上の先輩。
無愛想だけどカッコいいと、女子から大人気の彼。
転校して間もないアレンでも名前を知っているくらいの有名人。
そして、転校初日にアレンの事を『モヤシ』と失礼なあだ名で呼んだ奴。
不意にその日の事を思い出し、アレンは少しムッとした。
あれは、転校初日。
慣れない校舎に戸惑い、迷子になっていた時の事だ。
どこをどうやってあんな場所に辿り着いたのか、自分でも分からない。
職員室を目指していたはずなのに、何故か校舎の外に出てしまった。
一人パニクっている所へ現れた救世主・・・いや、悪魔といったほうが正しいかもしれない。
何せ彼は、初対面の相手を散々罵った挙句、失礼なあだ名までつけてきたのだから。
剣道部の朝練終了後だと思しき彼は、稽古着のまま水道で顔を洗っていた。
その姿があまりにカッコよくて、不覚にも一瞬見惚れてしまった。
・・・いや、そんな事はどうでもいいのだが。
とにかく、その彼に職員室までの道を尋ねたのが何よりの間違いだったのだ。
確かに、自分でもアレはかなりの方向音痴っぷりだと思った。
言われた内容も、職員室を探してて何故外に来るのかとか、
校舎からどんどん離れてってるのに何故疑問に思わないのかとか、
確かに的を得た指摘だったとは思う。
しかし、だからといって何故初対面の人間にあれ程ボロクソに言われなければならないのか。
いや、結局道を教えてくれはしたのだから、全くの嫌な奴ではないのかもしれないが。
それにしても、もう少し言い方というものがあるだろうとアレンは憤慨する。
そして一番許せないのが去り際の一言。
「もう少し方向感覚ってものを身に付けろ、モヤシ」
確かにアレンは白くて細いとよく言われる。
皆、そんなアレンを可愛いと形容してくれるが、やはり男としては嬉しくない。
だからこそ、その事を一番気にしていたのに、彼は遠慮なく『モヤシ』と言い放った。
初対面の相手からまさかそんな事を言われるとは思っておらず、
思わず何も言い返せないまま、去り行く背中を見送ってしまったのを今でも覚えている。
そこまで思い出した所で、アレンは先程から膨れっ放しの顔を一層膨れさせた。
思い出せば思い出すほど腹が立ってくる。
自分だって細いくせにと、鬱憤を晴らさんばかりに窓の外の神田を睨みつけた。
──────瞬間。
全てがスローモーションに見えた。
走っていた神田が不意に足を止め、ゆっくりとこちらを振り返る。
重なり合う二つの視線。
目が合った、気がした。
アレンが反射的にパッと前を向く。
心臓がバクバクと波打ち、顔がカッカッと火照っていく。
いきなり恥ずかしくなって、身を縮めるようにしてギュッと目を閉じた。
自分が自分ではなくなったような感覚に、思わず呼吸も浅くなる。
そんなアレンの様子に気づいた先生が、教科書の読み上げを止め、アレンの顔を覗き込んだ。
「どうしたウォーカー?気分でも悪いのか?」
急に話しかけられ、思わずまごついてしまう。
しかし、流石に『神田を見てドキドキしました』なんて答えられる訳もなく。
「いえ、大丈夫です!続けてください!」
咄嗟にいつもの笑顔を作りながら、ブンブンと大袈裟に手を振ってみせた。
先生が教科書を読み始めるのを確認してから、アレンは再び外に視線を戻す。
すると、神田はまだこちらを見ていて。
再び、二人の視線が重なり合う。
ドクンと高鳴る心臓に、無意識に服の裾を掴む。
遠目だったけれど、確かに彼は笑っていた。
(どうしよう、何だコレ・・・何でこんなにドキドキしてるんだ?)
恋になるまであと少し。
FIN
別サイト『モノクロ』の3000HIT記念小説。
クロ様よりリクエストいただいた『神アレで学園ネタ』です。
ちなみに、アレンが転校生で、アレン=高校1年、神田=高校3年という設定です。
転校初日に神田にバカにされ、ムカつくという意味で気にしてたら、
急にカッコいいところを見せられた挙句、不意に目があってドキドキキュン!みたいな。
学園モノと聞いて真っ先に浮かんだのが『ホイッスル!』だったので、神田にサッカーやらせてみた。
・・・・・・んだけど、神田とサッカーって何か合わないなぁ(笑)
※クロ様のみお持ち帰り可能です。
(2008・10・11)