大きな巨体が、盛大な悲鳴をあげ崩れていく。
その体が崩れ落ちる最後の瞬間まで見届けなくとも分かる。
コイツにはもう、反撃する術も、その気力もないだろうと。

 

六幻を鞘に収めながら巨体へ背を向けると、トマが座り込んだ女性へと歩み寄っている所だった。
年は俺と同じ・・・もしくは、少し上といった所だろうか。
籠に沢山の草花が入っている事から察するに、野草を摘みに来てAKUMAと遭遇したのだろう。

人の気配を感じ、女性はビクリと体を震わせた。
同時に、俺の背後で消えゆくAKUMAが目に留まったのだろう。
安どの表情を浮かべ、座り込んだまま、俺とトマを見上げてきた。

「大丈夫でしたか?」

トマが女性へと手を差し伸べる。

「助けてくれてありがとうございます」
「礼などいい。これが俺の仕事だ」
「でも、助けて下さったのは事実ですから。・・・あ、そうだ!何か御礼を・・・」

あたふたと籠の中やらポケットの中やら探りだす女性を制止し、本当に礼はいらないのだと断る。
教団へ戻る途中、偶然AKUMAを見つけたので破壊したら、偶然そいつに襲われていた人がいた。
ただそれだけの話だ。
助けようと思って助けた訳ではない。

「それなら・・・」

何かを閃いた様に、女性は籠の中から取り出したものを、俺の目の前へと差し出した。

緑色の葉に綺麗な模様の入った小さな野草─────クローバーだ。
しかも、よく目にする三葉ではなく、葉が4枚ついている四葉のクローバー。

「知ってますか?四葉のクローバーは幸せを運んでくれるって言われてるんですよ」

女性は微笑みながら、俺とトマへ1本ずつクローバーを手渡した。
「あなた方に幸せが訪れますように」と、祈りの言葉を込めて。

正直こんな野草を貰った所でどうしようもないのだが、流石に目の前で捨てるのは気が引ける。
とりあえず、素直に受け取り、礼を言っておいた。

 

 

女性の姿が見えなくなるのを確認後、手に残った野草へと目を向ける。
さて、こいつをどうしてやろう。
このまま捨てるか、トマへ押し付けるか・・・。
ぼんやりクローバーを眺めていると、ふと思い出したようにトマが話しだした。

「神田さんは知ってますか?四葉のクローバーの花言葉」
「知らん。興味もない」
「あれ?そうなんですか?植物栽培がお好きだと聞いたので、てっきり詳しいのかと・・・」
「栽培するのに花言葉は関係ないだろ」
「そう言われればそうですね」

そもそも花言葉なんぞ、女が好き好んで調べている所は見れど、男が調べているのなどあまり見た事がない。
男にその質問をする事自体、どうかと思うが・・・。

呆れ気味にトマを見やると、突如トマが自分のクローバーを俺に差し出した。

「・・・何の真似だ?」
「私はいいので、これ、神田さんの大切な人にあげてください」
「意味が分からん」
「彼女を助けたのは神田さんですし、私が持つよりその方がいいかと思って」

質問の答えになってないという突っ込みをするべきかどうか。
要は、俺が彼女を助けたのだから、クローバーは2つ共、俺が持つべきだ。
しかし、2つもいらないだろうから、1つは誰かに渡せ・・・という事だろう。

俺が言葉の意味を紐解いている間に、トマが更に続ける。

「クローバーの花言葉は『幸福』なんですよ。さっきの言い伝えはこれが元になってるんでしょうね」
「よく知ってるな」
「以前ちょっと調べる機会があったもので、それで覚えてたんです」

幸福というワードに、不幸の女神に全力で微笑みかけられているようなアイツの顔が浮かぶ。
こんな野草ごとき、気休めにもならんだろうが。

・・・やっぱり捨てるか。

そう考えている所に、トマの言葉が再び割り込んできた。

 

「そういえば、クローバーにはもう一つ花言葉があるんですよ。確か───── 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教団に戻って報告を終えた後、一直線にあいつの部屋へと向かう。
コムイによると、あいつも丁度任務を終え、部屋に戻った所らしい。

コンコンと、軽くノックをすると、中から「はーい」と返事が聞こえてきた。
パタパタと足音が聞こえ、ガチャリと扉が開かれる。

「・・・神田?珍しいですね。どうしたんですか?」

銀色の瞳が疑問の色を浮かべている。
軽く首を傾げた拍子に、白い髪がさらりと流れた。

その顔の前に、クローバーを持った手を差し出す。

「・・・やる」
「・・・へ?」

ポカンと口を開いたマヌケな顔に更に手を近づけると、慌てて手を差し出してきた。
手の上にクローバーを乗せると、そのまま踵を返す。

「用件はそれだけだ」
「は!?いや、ちょっと!いきなりこんなもの手渡されても!」

ギャンギャン叫ぶモヤシの声に、もう一度だけ振り返る。

「花言葉」
「はぁ?」

訳が分からないというモヤシの声を背に聞きながら、今度は振り返ることなく自室への道を歩いていく。

きっとあいつの事だから、後からリナかラビにでも意味を教えて貰うだろう。
その時のあいつの表情を思い浮かべると、頬が少し緩むのを感じた。

 

 

 

 

 

「そういえば、クローバーにはもう一つ花言葉があるんですよ。確か───── 」

 

 

 

 

 

『私のものになって』

 

 

 

 FIN 

 

 


沢山の方たちに誕生日をお祝いしてもらったので、ささやかではありますが、御礼小説を書かせて頂きました。
ブログにアップした時も書いたけど、ホント、むしろ皆様が私のものになってくれればい・・・ゲフンゲフン(笑)

お祝いをしてくださった皆様、本当に本当にありがとうございました(≧∇≦)

※お持ち帰りフリーです。

(2012・5・21)

 

 

ばっく