体温 

 

 

 

ボンヤリと薄暗い光の中。
ベッドに横たわりながら、僅かに意識がまどろむのを感じた。
先程からの行為で体が限界を訴えているのだろう。
現に、腰から下半身にかけての痛みと、全身の疲労感で、寝返りを打つ気力すらない。

さっさと寝てしまおう。
そうは思うが、無意識に動く度、下半身に走る鈍い痛みがそれを邪魔する。

無機質な天井から隣へと視線を移せば、その原因となる人物が横になっているのが映る。
長く伸ばした黒髪が、白いシーツの上に散りばめられている様は、何だか一枚の絵画の様に見えた。
彼の顔立ちが凄く整ったものだというのも、そう思わせる要因の一つだ。
起きている時はあんなにムッツリ警戒MAXな表情をしているのに、その寝顔は、どこか安心したような、油断しきったような表情をしている。
そのギャップに思わずドキリとしてしまったのも否めない事実ではあるが、同時に、自分だけぐっすり寝やがってという怒りが沸々と込み上げてきた。

 

確かにここしばらくは会えない日が続いていた。
それこそ数日ではなく、数週間単位で。

しかし、だからといって一体一晩に何回ヤれば気が済むのか。
愛しい人に会えなかった分を取り戻す為に・・・、とでも言えば聞こえはいいが、生憎彼がそんな甘い事を考えるタイプではない事はよく知っている。
恐らく、相手の事を気にせず、溜まった分を気が済むまで吐きだしただけだろうと結論付けた僕は、こっちの腰事情も考えず寝こける顔を憎々しげに睨みつけてやった。

 

途端、不意にシーツから出ていた右手を握られ、そちらへと意識を奪われる。
掴んだ相手はもちろん眠りこけている彼だ。
起きている時は絶対やらないだろう行動に驚きを隠せず、怒りが一気に消失していくのを感じた。

もう一度整った顔へと視線を戻せば、心なしか、少しばかり表情も柔らかくなった気がした。
一体何の夢を見ているのだろう。
誰が君の隣にいるんだろう。

君が手を握っている相手は僕?

それとも・・・・・・

 

 

 

「神田なんか僕の上で腹上死しちゃえばいいのに」

 

 

 

ポツリと呟いた言葉は、静まり返った部屋の中で、予想以上に大きく聞こえた。

 

もう寝よう。

痛みはまだあるけれど、先程よりは大分マシになってきている。
何より今は、右手にこの温もりがある。
今なら眠れる気がする。

そう思い、視線を天井へ向け、目を閉じる──────────と同時だった。

 

「いい度胸じゃねぇか」

 

右から聞こえてきたのは、聴き慣れた低い声。
しかも、あまり機嫌が良いとは言えない調子の。

そっと目を開き、声の方向に顔を向けると、寝ていたはずの彼がバッチリ目を開き、こちらを見ていた。

 

「・・・いつ起きたんですか」
「テメェが訳の分かんねぇセリフ吐く直前」
「・・・・・・」

なんとタイミングの悪い時に起きてくれたのか。
どうせ起きるなら、もう少し早く起きて声の一つでもかけてくれてれば良かったのに。
背筋に嫌な汗が走り、思わず視線を逸らす。

 

何か言われる前に謝ってしまおうか。
いやしかし、元を正せば悪いのはやりすぎた神田であって、僕ではない。

そんな事を悶々考えていると、ふと目の前に影が出来た。
つられて天井を見上げると、そこにあったのは天井・・・ではなく、綺麗に整ったあの顔。

「ちょっ・・・何やってんですか!」

慌てて両手で押しのけようと抵抗を試みる。
しかし、その手を神田はあっさりと捕えてしまった。

「はーなーせー!」

体全体を捩じる様に動かしながら相手を睨みつける。
本来ならばもう少し力を込めてやりたい所だが、いかんせん、こんな時でも例の痛みがそれを妨げる。

「死ぬほどヤられたいんだろ?ヤってやるよ」
「そんな事言ってない!勝手に脚色するなバ神田!」

体がダメならばと口頭で最後の抵抗を試みるも、神田は止まる気配を全く見せない。
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ、覚悟しろとばかりにそのまま覆いかぶさってきた。

 

 

 

神田の吐息。

神田の匂い。

神田の感触。

全てが僕の脳を支配していく。
触れられる度、その箇所が熱を帯びていく。

神田の体温を感じる。

ただそれだけの事が、こんなにも嬉しいと思える。

 

 

 

あぁ僕は、一体どれだけ彼を愛しているというのだろう。

 

彼には、『あの人』がいるというのに・・・。

 

 

 

神田の首に両腕を回し、ギュウっとしがみつく様に抱きつく。
離れてしまわないように。
彼がどこかへ行ってしまわないように。

それに応える様、神田もまた僕の背に手を回し、自分の方へと引き寄せた。

 

 

 

神田に、このまま本気で死んでほしいと思ってる訳じゃない。

けれど、もしそうなれば、神田が永遠に自分のものになる気がしたんだ。

 

神田が僕に誰を重ねていようとも、

今、彼が肌で感じているのは、紛れも無く『僕』の体温なのだから。

 

 

 

 FIN 

 

 


柚木様の投稿漫画が新人賞4位を受賞したそうで、そのお祝いに書かせて頂きました!
新人賞で4位ってかなり凄くないですか!?
柚木ちゃんのブログにアップされてた記事見て、 私の事じゃないのに私まで号泣しちゃいました(笑)

リクエストの方は、『切な甘小説』で、CPは色々選べたので、神アレで書かせて頂きました。
『受が片想いに見える両想い』と聞いた瞬間に閃いたのがこのお話でした。
神田にはあの人という思い人がいるというのが何ともピッタリだったもので。

神田にとってあの人は確かに大切な人ではあるけど、あくまでもそれは脳が移植される前の記憶。
『今』の神田ユウとして、今を生きる自分として、好きな人を見つけてくれるといいと思います。

こんなものでよろしければ、是非貰ってやってください。

最後になりましたが、柚木様、本当に本当におめでとうございます(≧∇≦)

※柚木様のみお持ち帰り可能です。

(2011・6・30)

 

 

ばっく