一緒に歩こう
住宅街を抜けると、目的地のゲートへと続く道は1本道だ。
辺りを見渡せば、人工物と呼べるものは少なく、所々に植えてある木が目立っている。
遠くまで緑が見渡せる風景と、その先に1軒だけ見える小さな教会。
今回のゲートは、この教会の中にある。
少し辺ぴな場所ではあるが、散歩がてら歩くにはちょうどいいコースだろう。
幸い、今日は天気も良く、ポカポカ暖かい中に心地よい風が吹くのがとても気持ちいい。
疲れた体を解す様に、アレンはググッと伸びをした。
「いい天気ですねー」
目の前を歩く神田に声をかける。
「あぁ」
ぶっきら棒ながらも、答えの内容は至って普通だ。
いつも喧嘩ばかりしている2人だが、こういう普通の会話をする事も少なくない。
お互いに機嫌が良ければ、からかい合うくらいはあるものの、大きな喧嘩になる事はあまりない。
特に今回は、先ほどまで当たっていた任務が成功した事が大きいだろう。
大きな被害もなければ、犠牲者もなし。
イノセンスも無事回収できた。
大きな問題がなかった事が、2人の機嫌が良い理由の一つだ。
心なしか、2人の足取りも軽く感じる。
本当は付き添いのファインダーもいたのだが、本部への連絡の為、一足先にゲートへ向かっている。
今頃は連絡も終わり、2人の到着を待っているかもしれない。
とはいえ、ゲートが開く時間までにはもう少し時間がある。
急ぐ必要もないため、こうしてのんびり歩いているというわけだ。
ポカポカ。
テクテク。
何を話すわけでもない、のんびりした時間が流れる。
ただひたすら前を見て歩く神田に対し、キョロキョロ周りを見渡しながら歩くアレン。
自然と2人の間に距離が出来ていく。
時折アレンが気付き、小走りにその距離を埋めるのだが、2人共自分のスタイルを止めない為、すぐまた開いてしまう。
脇目を振る事のない神田の後姿を見ながら、アレンは小さくため息を吐く。
折角久しぶりに与えられたゆっくりできる時間だ。
次の任務が忙しなく待ち構えてるわけでもなし、もう少しゆっくり歩いてくれても良いのに、なんて。
神田はいつも急ぎすぎなのだ。
よし、と小さく決心したような表情を覗かせ、アレンが話しかける。
「神田」
「何だ?」
「ん!」
そう言って差し出されたのは、アレン自身の右手。
掌に何か乗っている訳でもなければ、何かを指差している訳でもない。
それどころか、「お手!」と言わんばかりに掌が上向きに開かれている。
「・・・一体何の真似だ」
怪訝そうに神田が問う。
「だって神田、歩くの早いんですもん」
「・・・だから?」
「引っ張ってください」
ニッコリと笑顔で言い放つアレンに、神田はガックリと項垂れた。
任務同行者とは、必ずしも一緒に行動しなければいけない決まりなどない。
最終的に、ゲートが開く時間にそこに集まっていればいいだけの話だ。
無理に神田に合わせて急ぐ必要など、どこにもない。
100歩譲って、一緒に教会まで行くとしても、だ。
もう少しゆっくり歩けと言うなり、自分がもう少し早く歩くなり、方法は他にもある。
なのに。
何故『スピードについていけないから引っ張って』という結論になるのか。
大の男2人が手を繋いで歩くというのは、どう考えても奇妙な光景としか思えない。
「・・・何でそうなるんだよ・・・」
神田が、思っていた事をそのまま口にする。
目には呆れの色も少し乗せて。
「前は引っ張ってくれたじゃないですか」
「あれはテメェが迷子になるからだろ。森の中を捜索するこっちの身にもなれ」
「また迷子になるかもしれませんよ?」
「こんな見通しのいい1本道で迷子になれるもんならなってみやがれ。絶対探さねぇ」
「う〜〜〜神田のケチ!」
もういいです、とそっぽを向くアレンに、神田はため息をついた。
ガキかお前は、と考えた所で、相手がまだ15歳の子供である事に気付く。
あぁそうか、ガキだったと思い直し、そっぽを向くアレンの横顔をもう一度見る。
隣に並んではいるが、意地でも神田の方を向こうしないアレンを見ていると、妙に笑いがこみ上げてきた。
教会まではまだもう少し距離がある。
神田とアレン以外は、人どころか動物すら見当たらない。
仕方ねぇなともう一度ため息をつき、さっきアレンがやった様に左手を差し伸べてやる。
「おい」
小さく合図を送ると、アレンがチラリと顔を向けた。
表情はまだ不機嫌なままだ。
しかし、次に差し出された手を見るや否や、パッと表情が明るくなる。
普段はあんなに大人びているだけに、神田にはそのギャップがとても面白く感じた。
ギュッ、と自分の手を握ってくるアレンの手。
神田の中に、ほんのりと暖かい気持ちが広がっていく。
何となく離したくなくて、指を絡めるように繋ぎ直してやれば、途端アレンの頬に朱が差した。
「ちょっ・・・バカ!引っ張ってとは言ったけど、恋人繋ぎしてなんて言ってません!」
ブンブンと手を振り解こうとするアレン。
「チッ、うるせぇな。嫌なら離すぞ」
スッと手を緩めてやると、慌ててギュッと握り返される。
アレンは恨みがましい目で神田を見た。
「嫌だなんて言ってないじゃないですか」
「振り解こうとしたくせに」
「うっ・・・それは神田が・・・急にこんな繋ぎ方するから・・・」
赤くなった顔を隠すようにアレンが下を向く。
そんなアレンを見て、神田は満足気に口角を少し上げた。
「嫌じゃねぇなら大人しく引っ張られてろ」
「〜〜〜・・・・・・はい」
ポカポカ。
テクテク。
ゆったりした時間の中で、寄り添い歩く2人。
この先もこうして2人で歩いていけたら、なんて。
口には出さないが、お互いに同じ事を感じていた。
柄にもない事を考えてしまうのはこの陽気のせいだ、と言い訳も忘れずに。
そして、どちらからともなく、繋いだ手にもう一度力を込めた。
FIN
ブログの方でリンクさせていただいてる文月みそか様のお誕生日祝い作品です。
リクエストは『ラブラブな神アレ小説orイラスト』だったので、小説の方を書かせて頂きました!
ラブラブ・・・・・・せ、精一杯ラブラブさせてみたつもりです(笑)
イチャイチャベタベタしてるのもいいのですが、こういうナチュラルにラブラブなのもいいなぁと思いまして。
しかし、自分で読み返しても リクエストにちゃんとお答え出来てるか不安で仕方ない・・・。
こんなものでよろしければ是非貰ってやってくださいm(__)m
では、この度はリクエスト頂き、本当にありがとうございました☆
最後になりましたが、文月みそか様、お誕生日本当におめでとうございます(≧∇≦)
※文月みそか様のみお持ち帰り可能です。
(2010・9・8)