アイスクリーム・シンドローム 

 

 

 

食堂の窓際の席。
外から聞こえるセミの鳴き声をBGMに昼食を取っていると、大量の食料を抱えたアレンを見つけた。
ちょうど自分の隣が空いていたので、声をかけて呼んでみる。
俺を見つけるや否や、笑顔で駆け寄ってくるアレン。
まるで飼い主を見つけた子犬のようだ、なんて。

「聞いてくださいよラビ!神田ったらヒドイんですよ!」
「おー、今日はまた一段と燃えてんな。今度は何があったんさ?」

座った直後、早口一番に出てきたのは、ユウに対する愚痴トーク。
内容はいたっていつも通りだ。
ユウと喧嘩したとか。
ユウがこんな事してきたとか。
それでもユウを好きなのが悔しい・・・とか。

愚痴、というより恋愛トークと言ったほうが正しいかもしれない。

 

アレン曰く、俺は一番相談しやすい相手らしい。
俺を友達として、良い兄貴分として慕ってくれる。
頼ってくれるのは嬉しいけど、本音を言えば少し辛い。
アレンと他の奴との恋愛トークなんて、俺にとっては針のむしろでしかないから。

そう感じるようになったのは、一体いつからだっただろう。
初めてアレンからユウが好きと聞かされた時は、単純に驚いただけだった。
応援してやる。
いつでも相談に乗ってやる。
兄貴面してそう言い放ったあの頃の自分を、今更ながらに恨めしく思う。

とはいえ、今の関係が嫌な訳じゃない。
付かず離れずの距離感は心地よくて、どちらかと言えば好きな部類に当たる。
けれど、いつか自分がその恋愛トークに出てくる『相手』になれたら、なんてつい考えてしまう。
ブックマンとして、それが許されない事と分かっていても。

 

「やっぱり神田は僕の事嫌いなのかな・・・」
「ユウは意地っ張りなだけさ。気にすんなって」

笑顔で励まし、頭をポンポンと撫でてやる。
すると、アレンがじっと俺を見つめてきた。
たったそれだけの事なのに、思わずドキッとしてしまう自分が憎らしい。
動揺すんな俺!

「ラビって本当に優しいですよね」
「何さ?急に」
「神田とは大違いだなって思って」

そんな事をそんな切なそうな顔で言われると対応に困る。
思わず抱きしめたくなっちゃうだろ?

 

「じゃあ、ユウの代わりに俺を好きになったらどうさ?」

冗談交じりに提案。
でも・・・

「ははっ、そうですね。その方が楽かも」

茶化されて終わるのがいつものオチ。
俺が冗談っぽく言ってるから、アレンも冗談だと受け取る。
ワザと気づかれないよう振舞ってるくせに、伝われ!なんて考えてしまう。

気づいてほしい。
気づいてほしくない。
矛盾した気持ち。
隣にいるのに、手を伸ばしてもアレンには届かないような気がした。

 

「とりあえず、ほら、これでも食べて元気だすさ〜」

空気を変える為、デザートに食べようと思っていたアイスクリームを手渡してやる。
食べかけだったら間接キス、なんて冗談もいえるけど、生憎まだ一口も手をつけてない。

「ありがとうございます・・・・・・って、溶けてますよ。このアイス」

ガラス皿の上には、ベタベタに溶けてしまったバニラアイス。
食堂は涼しいはずだけど、どうやらアイスは待っててくれなかったらしい。

「あ〜、ここ結構日差しあるからなぁ。代わりの取ってくるか?」
「いえ、大丈夫です。このままでも十分美味しいですから」

もう一度御礼をいい、溶けたアイスを美味しそうに口に含んでいくアレン。
幸せそうな笑顔。

 

 

その笑顔を俺だけに向けてほしい。

 

目に焼きつくほどにその笑顔を見ていたい。

 

 

食べるそばから溶けていくアイスクリーム。

 

きっと運命は待ってくれない。

 

ベタベタに溶けてしまった、このアイスクリームのように。

 

 

 

「・・・さっきの、本気だから」

騒がしくなってきた音に紛れて小さく呟く。

「何か言いました?」
「俺もアイス取って来ようかなって言っただけさ」
「え!やっぱラビも食べたかったんじゃないですか!それなら僕が取ってきますよ」
「あ〜いいっていいって。まだ何味にするか決まってないし。考えながら行ってくるさぁ」

立とうとするアレンを座らせ、カウンター口へ向かう。

 

聞こえなくて残念。

聞こえなくて良かった。

矛盾した気持ちがまた湧きあがる。

 

席に戻ったら、もう一度、今度は真面目な顔で「俺にしとけば?」なんて言ってみようか。
もしアレンが少しでも悩んでくれたなら、今よりももっと近づける気がする。

そのまま二人の距離が近づいて、もし手を伸ばせば届くほど近い距離までこれたなら。

 

 

きっと、どんな一瞬だって世界は煌めいて見えるんだ。

 

 

 

 FIN 

 

 


ポケモン映画2010のED曲、『アイスクリーム・シンドローム』をイメージしたお話。

(2010・8・20)

 

 

ばっく