かくれんぼ
自分はかなりの方向音痴だと自覚している。
少し入り組んだ所に入り込めば、そこから脱出するまで、ゆうに人の倍はかかるだろう。
道標のない砂漠や森なんかで迷えば、何時間どころでは済まない。
何日・・・いや、何週間も抜け出せずに彷徨う羽目になるかもしれない。
そんな方向音痴っぷりは、やはり任務先に行っても同じで。
たまに・・・・・・いや、結構頻繁に、辺りを見回しながらオロオロする羽目になっている。
もちろんワザとじゃない。
大抵、アクマを追って一人で同行者達から離れてしまった結果だ。
そして今も。
「・・・今どこにいるんだろ・・・」
はぁ、と思わずため息が漏れる。
辺りを見回して目に入るのは、到底人工物とは呼べないような美しく生い茂った緑。
どこをどう見ても『森の中』だ。
アクマを追いかけ無事破壊できたはいいものの、気がつけば深い森の中。
道なき道を辿って来た為に、自分がどこから来たのかも分からない。
ましてや、今一体どの辺りにいるのかなんて、サッパリ検討もつかない。
付添のファインダーは、近くの村で村人の警護。
僕の監査をしているはずのリンクも、今回はそちらの応戦へ。
オマケに、危険だからとティムまでリンクに預けてしまった。
ハッキリ言って、本当についてない。
そういえばラビが、僕はアンラッキーボーイだなんて言ってたっけ。
はぁ、ともう一つため息を落とし、空を見上げる。
カァ―カァ―と呑気な鳴き声を鳴らしながら、1羽のカラスが飛んで行くのが見えた。
どうやらそろそろ日暮れらしい。
アクマを見つけた時間と追ってきた距離。
プラス、倒すまでにかかった時間を考えると、皆と離れてから結構経っている事に気づく。
これだけ時間が経っていれば、もう1体のアクマはもう一人のエクソシストが倒し終わっているだろう。
村に戻って報告して。
ファインダー達がもう安心だと村人達に伝えに行って。
そして、そろそろ僕がいない事に気づいてる頃かもしれない。
「皆心配してるかなぁ・・・」
ぼんやり空を眺めながら、ポツリと呟いてみる。
当然返事なんてないんだけど。
思い返せば、初めての任務でも迷子になったんだよなぁ。
マテールの廃墟の中を一人でひたすら彷徨って。
同じ場所を何度もぐるぐるして。
このまま皆と合流できなかったらどうしよう、なんて本気で悩んで。
記念すべき初任務が失敗なんて嫌だー、なんて一人で叫んでたっけ。
懐かしい思い出に、思わず苦笑する。
そしてふと、あの時はどうやって合流できたんだったかと、もう一度頭を捻った。
トマが迎えに来てくれたんじゃないし。
ティムが迎えに来てくれたんでもない。
見失ったアクマをもう一度見つけた訳でもない。
・・・・・・あぁそうだ。
神田の声が聞こえたんだ。
暗く狭い通路を通ってたら、かすかに・・・本当にかすかに神田の声が聞こえて。
その声に導かれるようにその方向へ向かってみたら、小さな出口があって。
大きな通路に出たと思ったら、ちょうど神田が僕の姿をしたトマに攻撃しようとしてたんだ。
「そっか、神田が僕を導いてくれたんだ」
本人にそのつもりがなかった事は明白だけど。
何だか急におかしくなって、思わず笑みが零れた。
今度は、少し晴れやかな気分で空を見上げる。
先程からあまり時間は経っていないというのに、もう薄暗くなってきている。
日が暮れるのは本当に早い。
でも、不安や恐怖はなかった。
だって──────
「おい、バカモヤシ」
ガサリと背後の茂みが揺れ、聞き慣れた低い声が耳に届く。
振り返ると、こんな所にいやがった、とでも言いたげに睨む鋭い瞳。
「神田」
「何ボーっと突っ立ってんだテメェ。もう少し自分で動こうっつー気はねぇのか」
口調は厳しいけど、本気で怒ってはいない。
呆れてはいるだろうけど。
「前は勝手に動くなって怒ったくせに」
「だからって、ボーっと突っ立ってろとは言ってねぇ」
じゃあどうしろってんだよ、なんて思ったけど、反撃はしない。
それを言うと本気で怒っちゃうだろうから。
代わりに、思った事を素直に口に出してみる。
「よく僕を見つけられましたね」
本当に何故この短時間で見つけられたのか不思議でならない。
こんな広い森の中だし、かなり遠くへ来てしまった自覚はある。
偶然にしたって、かなり低い確率ではないかと思う。
それを、こんなさも当然の様に探し当てられるなんて・・・。
今回だけじゃない。
いつもそうだった。
僕が迷った時は、いつだって神田が見つけてくれるんだ。
街の中で逸れても「お前が行きそうな所くらい検討がつく」って言われて。
教団内で迷っても「こっちはお前より長くここに住んでんだよ」って当たり前の様に見つけてくれた。
砂漠で迷えば「お前がこっち向かうのが見えた」って追いかけてきてくれて。
そして今回も・・・
「こんな深い森なんざ、そうそう人なんか入ってこねぇ。
そんな中、アクマと戦いながら森に入って行けば嫌でも『跡』が残る。
草が不自然に折り曲がってたり、木に不自然な傷跡があれば、そっちにお前がいるっつー事だ。
分かったらさっさと行くぞ」
僕が返事をする前に、くるりと踵を返し歩き出す神田。
「あ、ちょっと待ってくださいよ!」
僕も、急いで自分より少しだけ大きな背中を追いかける・・・が。
「う、わ!!」
ドサリと音を立てて体が地面につく。
薄暗くて足元が見えなかった為、木の根に足を取られてしまったようだ。
また神田にバカにされる、なんて考えてると、案の定頭上から声が降ってきた。
「何やってんだよドジ」
自分でも思ったんだからワザワザ言わないでください。
言い返してやろうと顔を上げると、目の前に見覚えのある黒い数珠がついた左手が1本。
それが神田の手だと理解するのに、かなりの時間を要した。
「・・・は?」
思わず出たのはマヌケな声。
「ほら」
神田が面倒臭そうに、もう一度左手を差し出す仕草をする。
その仕草が、あまりに彼に似合わなくて。
・・・あまりに嬉しくて。
思わず満面の笑顔で手を取ってしまったんだ。
すっかり日が暮れてしまった森の中、逸れないように手を取り合って歩く僕達。
暗くてお互いの表情は見えないけど、掌から伝わってくる温もりがお互いの存在を証明している。
神田は歩くのが早くて、その上、相手に合わせるなんて絶対しないから、途中何度も遅れそうになる。
しかし、その度に少し速度を緩めて僕を待っててくれる。
そして、少しだけギュッと握る手に力が込められる。
・・・ほら、また。
何だかまた嬉しくなってきて、僕はもう一つ神田に尋ねてみた。
「ねぇ神田、どうして探しに来てくれたんですか?」
「あ?テメェがいなくなるからだろ」
最初から期待なんてしてなかったけど、予想通りの冷たい答え。
当たり前の事聞くなと思ってるんだろう。
「そうじゃなくて。リンクやファインダーに任せても良かったじゃないですか」
「アホか。まだアクマが残ってたらどうすんだよ」
「それはそうですけど・・・」
アクマがいなくても探しに来てくれるくせに。
本当は優しいの知ってるんですよ、なんて。
でもこれ以上は意地悪かな。
そんな事を考えていると、神田がもう一度口を開いた。
「それに、テメェは変な所に紛れるのが得意だからな。アイツ等じゃ探せねぇだろ」
まるで僕がかくれんぼの天才だとでも言いたげなセリフだ。
別に得意になりたくてなったんじゃないんですけど。
「じゃあ神田はなんで分かるんですか?」
少し膨れて言い返してやると、一瞬の間。
そして─────
「お前の居場所くらい分かる」
遅れた訳ではないのに、繋いだ手にギュッと力が入るのが伝わってくる。
それだけで心がじーんと熱くなって。
神田の事がますます好きだなんて思えて。
あぁ、幸せってこういう事を言うんだな、なんて思ったんだ。
FIN
ブログの方でリンクさせていただいてる江那様のお誕生日祝いに書かせていただきました!
リクエストは『ほのぼの神アレ』との事でしたが、ちゃんとリクに沿えてるでしょうか;;
迷子のアレンを見つけるのは神田の役目だと萌えると思うのですよ。
どこにいてもアレンの行きそうな場所、迷いそうな場所ならすぐ分かる。
ちゃんといつもアレンを見てるから、アレンがいなくなったらすぐ気付く。
神田はそれくらいアレンにぞっこんであればいいと思います(笑)
こんなものでよろしければ是非貰ってやってくださいm(__)m
では、この度はリクエスト頂き、本当にありがとうございました☆
最後になりましたが、江那様、お誕生日本当におめでとうございます(≧∇≦)
※江那様のみお持ち帰り可能です。
(2010・5・10)